松田 夕子¹, 西野 聖吾¹, 加茂 健太², 八尋 健一郎², 吉本 智子¹, 斎藤 浩志¹

Yuko MATSUDA¹, Seigo NISHINO¹, Kenta KAMO², Kenichiro YAHIRO², Tomoko YOSHIMOTO¹, Hiroshi SAITO¹

¹綜合病院山口赤十字病院検査部, ²綜合病院山口赤十字病院整形外科

¹Department of Clinical Laboratory, Yamaguchi Red Cross Hospital, ²Orthopedic Surgery, Yamaguchi Red Cross Hospital

キーワード :

【はじめに】
腱付着部炎は脊椎関節炎（以下SpA）において特徴的な症状であり，アキレス腱付着部炎および足底腱膜炎はASAS，ESSG，Amorの分類基準に用いられている．MRI検査とともに腱付着部病変の観察に超音波検査は有用であると考えられ，超音波検査による腱付着部の活動性や構造障害の評価法にGlasgow Ultrasound Enthesitis Scoring System（以下GUESS）やMadrid Sonographic Enthesis Index（以下MASEI）などがある．GUESSはグレースケールによる下肢の観察，MASEIはGUESSに肘を加え，さらにパワードプラー法を併用した評価方法である．グレースケールでは腱付着部の変化（腱肥厚）・滑液包炎・骨びらんや靱帯骨棘を，パワードプラー法では腱付着部炎の活動性を評価している．
【目的】
SpAに対し，GUESSを用いた下肢腱付着部炎の評価の有用性を検討した．
【対象・方法】
2014年6月から同年8月までに，当院整形外科を受診した患者を対象とし，GUESSに準じて下肢超音波検査を行った．超音波診断装置は日立アロカメディカル社製HI VISION Avius，高周波リニアプローブ（周波数帯域18〜5MHz）を使用した．
GUESSの観察部位は大腿四頭筋腱・膝蓋腱近位・膝蓋腱遠位・アキレス腱・足底腱膜で，各部位において腱肥厚・滑液包炎・骨びらん・靱帯骨棘を評価した．評価はGUESSの評価基準を用いた．
5つの観察部位において4項目（腱肥厚・滑液包炎・靱帯骨棘・骨びらん）の評価を行い，右下肢・左下肢の合計36点でスコアを算出した．
【結果】
上記期間中にSpA群18名，その他群47名，計65名（650部位）が含まれた．なお，SpA群とはSpA加療中患者と新たにSpAと診断された患者，その他群には関節リウマチ・血清反応陰性関節リウマチ・踵骨部腱付着部炎などの加療中患者と新たに診断された患者が含まれた．
SpA群は平均50.39歳，その他群は平均60.11歳と2群間で有意差を認めた（P＝0.0154）．
性別の内訳は，SpA群で男性6名・女性12名，その他群で男性13名・女性34名となり，2群間で有意差を認めなかった（P＝0.762）．
GUESS値はSpA群平均9.611，その他群平均9.894で，2群間に有意差を認めなかった（P＝0.776）．
【考察】
本調査ではGUESSとSpAとの相関を認めず，下肢腱付着部炎の評価にGUESSは有用とはいえなかった．その原因として靱帯骨棘の影響が大きいと考えられた．靭帯骨棘発現の危険因子の一つに年齢が挙げられている．本調査において，その他群は有意に高齢でありGUESSの中で靱帯骨棘スコアの占める割合が高かった．そのため有意ではないものの，その他群のほうがGUESS値が高かった．
そこでGUESSを靱帯骨棘スコアとそれ以外のスコア（以下D：腱肥厚・滑液包炎・骨びらん）に分けて検討を行った．
靱帯骨棘・D・D/GUESS値を因子としたオッズ比の解析（ロジスティック回帰分析）を行ったところ，靱帯骨棘はOR 0.56（95％CI 0.347-0.915 P=0.0204），DはOR 2.17（95％CI 1.010-4.650 P=0.0472），D/GUESSはOR 0.924（95％CI 0.837-1.020 P=0.1200）となり，靭帯骨棘のオッズ比よりDのオッズ比の方が高かった．このことより腱肥厚・滑液包炎・骨びらんがSpAの危険因子として挙げられた．滑液包炎と骨びらんの出現率は低いため，特に腱肥厚が重要な因子と示唆された．
【結語】
GUESSにおいて，靱帯骨棘スコアの占める割合が高かった．腱付着部炎の評価においては腱肥厚が大きな比重を占める可能性があった．