Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 運動器
運動器1 

(S693)

踵骨部付着部炎における超音波評価−アキレス腱付着部と足底腱膜付着部の病態の違い−

Ultrasonographic evaluation of calcaneal enthesitis: comparison with achilles tendonitis and plantar fascitis

西野 聖吾1, 松田 夕子1, 加茂 健太2, 八尋 健一郎2, 吉本 智子1, 斎藤 浩志1

Seigo NISHINO1, Yuko MATSUDA1, Kenta KAMO2, Kenichiro YAHIRO2, Tomoko YOSHIMOTO1, Hiroshi SAITO1

1綜合病院山口赤十字病院検査部, 2綜合病院山口赤十字病院整形外科

1Department of Clinical Laboratory, Yamaguchi Red Cross Hospital, 2Orthopedic Surgery, Yamaguchi Red Cross Hospital

キーワード :

【はじめに】
関節リウマチ(以下RA)をはじめとする炎症性関節疾患における超音波検査(以下US)は,国内外でUSの新しい領域の一つとして普及しつつある.またリウマチ学の分野では,RAにおける早期診断,早期治療の重要性が広く認識されるようになり,USは正確な疾患活動性の評価や治療効果判定において,診断に有用な検査として注目されるようになった.
しかしながら,リウマチ性疾患の中で国内では未だに認知度の低い疾患として脊椎関節炎があり,この疾患に対するUS評価の報告も少ない.
今回我々は,ASASの分類基準に用いられている脊椎関節炎の特徴であるアキレス腱付着部炎,足底腱膜炎のUSでの腱肥厚を調査したので報告する.
【目的】
アキレス腱付着部と足底腱膜付着部の臨床所見(圧痛),X線での靭帯骨棘,USでの腱の厚みの関係を明らかにすることを目的とした.
【対象・方法】
2014年6月から同年8月までに当院整形外科を受診した外来患者のうち,脊椎関節炎・RA・踵骨部付着部炎の患者,ならびにRAを疑い検査したが否定された患者計69名(138足)を対象とした.内訳は脊椎関節炎18名,RA29名,その他疾患22名であった.
方法は,医師によるアキレス腱付着部・足底腱膜付着部の圧痛の有無の確認,X線は両踵骨側面を撮影,USではアキレス腱と足底腱膜の厚みを計測した.超音波診断装置は日立アロカメディカル社製HI VISION Avius,高周波リニア型プローブ(周波数帯域18〜5MHz)を使用した.
【調査項目】
①アキレス腱付着部・足底腱膜付着部の圧痛
②X線での靭帯骨棘
③USでの腱厚
【結果】
アキレス腱付着部
圧痛を認めた群では腱の厚みは4.71mm(±1.63mm)で,圧痛を認めなかった群では腱の厚みは4.39mm(±0.83mm)であり統計的に有意差は認めなかった(P=0.299).
X線で靭帯骨棘を認めた群では腱の厚みは4.60mm(±1.03mm)であり,X線で靭帯骨棘を認めなかった群では腱の厚みは4.23mm(±0.72mm)であり統計的に有意差を認めた(P=0.0154).
足底腱膜付着部
圧痛を認めた群では腱の厚みは3.26mm(±0.88mm)で,圧痛を認めなかった群では腱の厚みは2.68mm(±0.68mm)であり統計的に有意差を認めた(P=0.0172).
X線で靭帯骨棘を認めた群では腱の厚みは2.81mm(±0.77mm)であり,X線で靭帯骨棘を認めなかった群では腱の厚みは2.66mm(±0.65mm)であり統計的に有意差は認めなかった(P=0.24).
【考察】
アキレス腱付着部においては,X線で靭帯骨棘を認めた群で有意に腱肥厚を認めた.しかし,圧痛と腱肥厚に関しては有意な関連はなかった.足底腱膜付着部では,X線での靭帯骨棘の有無に関わらず,圧痛の有無が腱肥厚と有意に関連を認めた.
X線上の踵骨部靭帯骨棘の出現に関しては,アキレス腱付着部と足底腱膜付着部では病態の違いが示唆されている.アキレス腱付着部では牽引ストレスが主の病態であり,足底腱膜付着部では牽引ストレスのみでなく圧迫ストレスも加わる.アキレス腱付着部では腱付着部内に靭帯骨棘が形成されアキレス腱が肥厚するが,足底腱膜付着部では靭帯骨棘は腱付着部より深層に形成され靭帯骨棘の存在は腱肥厚に影響しないと考えられた.US上の評価の注意点として,アキレス腱付着部に腱肥厚を認めても必ずしもアキレス腱付着部炎の病態を反映するとは言えないが,足底腱膜付着部の腱肥厚は足底腱膜炎(無症候性,慢性変化)の診断に有用であると考えられる.
今後の課題として,靭帯骨棘の発生機序および靭帯骨棘の存在と疼痛の関係性ならびに病態の違いや腱厚の正常値の検討が重要であると考える.
【結語】
本調査より,踵骨部の病態の違いが示唆され,アキレス腱付着部よりも足底腱膜付着部の腱肥厚が炎症を反映している可能性があると考える.