Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 血管
腹部血管・動脈 

(S688)

超音波検査で診断した遺残坐骨動脈の一例

A Case of Persistent Sciatic Artery diagnosed by Ultrasonography

吉見 登美子1, 佐藤 通洋2, 大久保 博世3, 渋谷 慎太郎3, 林 忍3, 村井 涼子1, 宮地 道代1, 菅原 伸大1, 横山 一紀1

Tomiko YOSHIMI1, Michihiro SATO2, Hirotoki OOKUBO3, Shintaro SHIBUTANI3, Shinobu HAYASHI3, Ryouko MURAI1, Michiyo MIYACHI1, Nobuhiro SUGAWARA1, Kazunori YOKOYAMA1

1済生会横浜市東部病院臨床検査部, 2済生会横浜市東部病院放射線診断科, 3済生会横浜市東部病院外科

1Department of Clinical Laboratory, Saiseikai Yokohamashi Tobu Hospital, 2Department of Diagnostic Radiology, Saiseikai Yokohamashi Tobu Hospital, 3Department of Surgery, Saiseikai Yokohamashi Tobu Hospital

キーワード :

【症例】
73歳,女性.
主訴:左下肢痛.
既往歴:1962年,十二指腸潰瘍手術,1972年,甲状腺腫手術,2005年,早期大腸癌EPMR,2013年5月,C型肝硬変による肝細胞癌RFA,2013年7月から骨髄異形成症候群の診断で血液内科通院.
家族歴:特記すべきことなし.
現病歴:2012年より左臀部から下腿にかけての疼痛があり,整形外科で経過観察していた.2013年12月,他院より左下肢ASO疑いで当院血管外科を紹介受診した.
現症:身長152cm,体重44.5kg.血圧140/77.ABI;右1.14,左0.76.脊椎側弯症あり.
血液検査所見:TP 8.8g/dl,T.Bil 2.0mg/dl,AST 86U/l,ALT 59U/l,LDH 489U/l,ALP 315U/l,γ-GTP 14U/l,UN 10.5mg/dl,CRE 0.38mg/dl,CRP 0.07mg/dl,WBC 2650/μl,RBC 164万/μl,Hb 6.5g/dl,Plt 11.0万/μl,D−dimer 2.7μg /ml,FDP 6.4μg /ml.
画像所見:
(超音波検査)依頼された下肢静脈の検査時に,骨盤腔左側から臀部を通り,大腿背側やや外側の深部を下行し,膝窩動脈に連続する動脈を認めた.血栓が充満し,臀部では血管内腔に著明な石灰化を伴っており,動脈瘤形成が疑われた.右側にも同様の血管を認めたが,血栓は確認されなかった.右浅大腿動脈は中部で径が6.3mmあるのに対し,左浅大腿動脈は径3.7mmと細く,大腿下部ではさらに細くなりやや蛇行していた.右浅大腿動脈は膝窩動脈に連続,左浅大腿動脈は膝窩動脈に合流すると思われるが,細く不明瞭であった.なお,下肢静脈瘤はクモの巣状,網目状のみで大伏在静脈および小伏在静脈の逆流はなく,また,深部静脈血栓は認められなかった.
(CT)両側の遺残坐骨動脈が認められた.右側は開存しており通常の膝窩動脈と吻合,左側は梨状筋下方から完全閉塞し,股関節背側では高度石灰化を伴っていた.左浅大腿動脈は低形成で細く,膝窩動脈とは本幹で連続しておらず,膝窩動脈以下は側副路を介して造影された.
手術:左大腿−膝窩動脈パイパス術(femoropopliteal BK)施行.
【考察】
胎生期における下肢動脈は,①外腸骨動脈−浅大腿動脈,②内腸骨動脈−坐骨動脈−浅膝窩動脈−前・後脛骨動脈,腓骨動脈(膝窩深動脈−骨間動脈−腓骨動脈の経路を含む)の2系統から成る.遺残坐骨動脈は,発生頻度0.01〜0.06%の稀な先天性血管形成異常で,胎生3ヶ月ころまでには退化すべき坐骨動脈が,下肢末梢部への血液供給の主幹として遺残したものである.完全型と不完全型があり,完全型(80%)は2系統の胎生期動脈が完全に残り,膝窩動脈に連なったもので,外腸骨動脈,浅大腿動脈の欠損あるいは低形成を伴うことがある.不完全型(20%)は坐骨動脈の遺残があるが,内腸骨動脈あるいは膝窩動脈とは細い副血行路を介して連絡しているにすぎないものである.坐骨動脈は大坐骨孔を通り坐骨神経に沿うルートを走行するため,体動により外傷を受けやすく,動脈瘤や血栓性閉塞による虚血症状を呈してくる.
本例は両側の完全型遺残坐骨動脈で,左浅大腿動脈の低形成を伴い,本症に典型的な症状を呈した.遺残坐骨動脈は走行経路が特徴的なため,本症の知識があれば超音波診断は容易である.
【結語】
下肢の超音波検査において発見,診断しえた稀な両側遺残坐骨動脈の一例を経験したので報告した.