阿部 記代士¹, 湯田 聡^{2, 3}, 安井 謙司¹, 大久保 亜友美¹, 村中 敦子³, 橋本 暁佳⁴, 寺本 篤史⁵, 名越 智⁶, 山下 敏彦⁵, 三浦 哲嗣³

Kiyoshi ABE¹, Satoshi YUDA^{2, 3}, Kenji YASUI¹, Ayumi OKUBO¹, Atsuko MURANAKA³, Akiyoshi HASHIMOTO⁴, Atsushi TERAMOTO⁵, Satoshi NAGOYA⁶, Toshihiko YAMASHITA⁵, Tetsuji MIURA³

¹札幌医科大学附属病院検査部, ²札幌医科大学医学部感染制御・臨床検査医学講座, ³札幌医科大学医学部循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座, ⁴札幌医科大学医学部病院管理学, ⁵札幌医科大学医学部整形外科学講座, ⁶札幌医科大学医学部生体工学運動器治療開発講座

¹Division of Laboratory Diagnosis, Sapporo Medical University Hospital, Sapporo, Japan, ²Department of Infection Control and Clinical Laboratory Medicine,, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan, ³Department of Cardiovascular, Renal and Metabolic Medicine, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan, ⁴Division of Health Care Administration and Management, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan, ⁵Department of Orthopedic Surgery, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan, ⁶Department of Musculoskeletal Biomechanics and Surgical Development, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan

キーワード :

【背景】
人工関節置換術後の深部静脈血栓症（DVT）発生因子として，高齢，女性，喫煙，脂質異常症，Dダイマー高値，人工膝関節置換術（TKA）が報告されている．しかし，術後のみ評価した報告が多く，術前からDVTを有した例を含んで発生因子を検討されていた可能性がある．また，人工関節置換術後に肺血栓塞栓症を発症した例は，非発症例に比べ，術前のひらめ静脈は拡大していることが報告［1］されているが，人工関節置換術後の新規DVT発生とひらめ静脈の拡大の関連は不明である．
【目的】
ひらめ静脈の拡大と人工関節置換術後の新規DVT発生との関連を検討すること．
【対象および方法】
2013年4月から2014年3月までの間に人工関節置換術前および術後に下肢静脈エコー検査を施行した連続135例（平均年齢66±13歳）を対象とした．術前（平均5日）と術後（平均8日）に，東芝社製Aplio500もしくはGE社製LOGIQ S8の8-10MHzの高周波リニア型プローブを使用して下肢静脈エコー検査を行い，DVTの有無を評価した．ひらめ静脈の観察は，ベッド横に下腿を下垂させて行い，左右いずれかのひらめ静脈の最大短軸径が10mm以上あった場合，ひらめ静脈の拡大ありと定義した．なお，術前の検査でDVTを認めた例は検討から除外した．
【結果】
37例（27％）に新規DVTの発生を認めた（DVT群）．ひらめ静脈拡大は15例（11％）で認め，うち11例（73％）で新規DVTの発生を認めた．新規DVT37例中33例（89％）は，ひらめ静脈内にのみ血栓を認めたが，3例はひらめ静脈から腓骨静脈，1例はひらめ静脈から膝窩静脈まで進展していた．DVT群は非DVT群に比べ，高齢（73±10歳vs. 64±13歳，p＜0.01）で，女性（89％vs. 71％，p＜0.05）が多く，TKA施行例（50％vs. 19％，p＜0.001）およびひらめ静脈の拡大例（30％vs. 4％，p＜0.01）を多く認めた．一方，両群間においてDダイマー，体重，血圧，内服薬，基礎疾患や人工関節置換術の既往歴の有無，手術時間，術中出血量，術後リハビリ開始までの時間には差異を認めなかった．人工股関節置換術（THA）施行99例中19例（19％），TKA施行36例中18例（50％）に新規DVTを認めた．THA-DVT群はTHA-非DVT群に比べ有意に高齢（69±11 vs. 59±16歳，p＜0.01）であり，ひらめ静脈の拡大例（26％vs. 5％，p＜0.01）を多く認めた．同様にTKA-DVT群は，TKA-非DVT群に比べ，ひらめ静脈の拡大例（33％vs. 0％，p＜0.01）を多く認めた．
【考察】
ひらめ静脈の拡大が新規DVT発生と関連した理由として，ひらめ静脈の拡大が血流のうっ滞をきたしやすいことが考えられる．術前にひらめ静脈の拡大を認めた場合，新規DVT予防のため，術後管理を強化する必要性が考えられる．
【結論】
人工関節置換術後の新規DVT発症には，従来報告されていた高齢，TKA施行に加え，ひらめ静脈の拡大が関連することが新たに明らかになった．THA，TKAいずれの施行例においても，ひらめ静脈の拡大は新規DVT発生と関連していた．一方，術前のDダイマーや通常の臨床指標とDVT発生との関連は，今回の検討では明らかではなかった．
　
［1］榛沢和彦ら．Therapeutic Research 2005: 26; 1152-5.