Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 血管
静脈1 

(S680)

当院における周術期静脈血栓症予防に対する取組みと3年間の成果

Prevension of Perioperative Venous Thromboembolism by Using lower extremity venous ultrasound

寺西 ふみ子1, 細井 亮二1, 駒 美佳子1, 浅岡 伸光1, 上水流 雅人3, 篠田 幸紀2, 渡部 徹也2, 星田 四朗2, 小枝 伸行4

Fumiko TERANISHI1, Ryoji HOSOI1, Mikako KOMA1, Nobuaki ASAOKA1, Masato KAMIZURU3, Yukinori SHINODA2, Tetsuya WATANABE2, Shiro HOSHIDA2, Nobuyuki KOEDA4

1八尾市立病院中央検査部, 2八尾市立病院循環器内科, 3八尾市立病院泌尿器科, 4八尾市立病院事務局企画運営課

1Central Laboratory, Yao Municipal Hospital, 2Cardiovascular Medicine, Yao Municipal Hospital, 3Urology, Yao Municipal Hospital, 4Department of Office Planning and Management Division, Yao Municipal Hospital

キーワード :

【はじめに】
2004年にわが国でも肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドラインが策定され,各施設でも周術期VTE予防の環境整備が行われるようになった.当院でも2011年に医療安全委員会のもと麻酔科を始めとする関連診療科の医師が集まり周術期血栓対策部会を立ち上げ,周術期血栓対策マニュアルを作成した.近年は検査技師もメンバーに加わり超音波検査データの提供などを行って積極的にサポートしている.
当院のシステムは電子カルテに作成されたVTEリスク評価のテンプレートを用い,先の予防ガイドラインで示された術前VTEリスク評価表に則って,各科の手術自体のリスクに付加的リスクを加味してリスク評価を行い,予防策を決定している.
今回,当院における周術期VTE予防に対する取組みと運用開始後の3年を振り返り,成果と問題点について検討した.
【対象・方法】
2012年4月1日から2014年8月31日で周術期術前の調査対象患者5579例において,VTEリスク評価テンプレートの使用率,VTEリスク評価表使用前リスク評価と使用後リスク評価を検討し,リスク評価にて最高リスクかつD dimer陽性(>1.0μg/ml)の場合は下肢静脈エコー依頼とし,エコーにて認めたDVT陽性群の内訳を検討した.
【結果】
VTEリスク評価表使用率は,2012年度では28.2%(リスク評価表利用者/対象患者=558/1978例),2013年度77.3%(1661/2148例),2014年度(4-8月)77.8%(1131/1453例)と上昇を示した.期間中,VTEリスク評価表使用前リスク評価で最高リスク49例であったが,リスク評価表使用後リスク評価では最高リスクが526例(15.7%)となり,付加的リスクが加味されることによって10.7倍の増加を認めた.
術前下肢静脈エコー依頼件数は,2012年度116件,2013年度220件,2014年度(4-8月)101件,総件数437件と増加を示した.DVT陽性群は74例(16.9%,男/女=19/55)認められ,診療科別のDVT発生件数/下肢静脈エコー依頼件数は,整形外科45/215例(20.9%),外科22/146例(15.0%),産婦人科3/43例(6.9%),泌尿器科3/13例(23.0%),脳外科1/11例(9.0%),その他0/9例であった.そのうち手術中止は1例,IVC filter留置が4例(5.4%)であった.
血栓性状は可動性2例,亜急性9例,器質化63例であり,血栓の局在は中枢・末梢型9例,中枢型17例,末梢型48例.両側21例,左のみ31例,右のみ22例であった.VTEリスク評価表使用後は有害事象例を認めなかった.
【考察】
市中病院である当院では,VTEに精通した医師がいない,中心となる医師がいない,医師・コメディカルの知識不足などがあり,周術期VTE対策では院内統一の予防策がなく,各診療科で独自のプロトコルによって対応している状態であった.また当時は静脈エコーを依頼する検査室のキャパシティや技術の問題もあり,多くの件数をこなすことも困難な状況であった.
周術期血栓対策部発足後,VTE対策チームによる院内での啓蒙活動,勉強会,マニュアル作成などによりVTEリスク評価テンプレートの使用率も向上し,VTE予防に対する院内でのコンセンサスが向上した印象がある.検査室においても技師の確保や技術の習得がはかられ,当日依頼にも対応できる体制が構築されてきた.2012年以降,無症候性のDVTは発見されているが重症化に至ることなく有害事象例を認めていない.
しかしながら現在でもVTEリスク評価表未使用の診療科が存在し,プロトコルからはずれた症例でもDVTが認められるなど,さらなる啓蒙活動と予防策が必要である.病院全体が協力してVTE予防の取り組みをおこない,実施されているVTE評価の検証を行うことにより,必要に応じてリスク評価表やマニュアル改正の議論も必要と考えている.