Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 腎泌尿
腎泌尿器1 

(S675)

骨盤内動静脈奇形に対する経動脈的塞栓術後に発症した前立腺梗塞の一例

A case of prostatic infarction associated with transarterial embolization for pelvic arteriovenous malformation

皆川 倫範1, 小川 輝之1, 黒住 昌弘2, 藤田 顕2, 鈴木 健史2, 角谷 眞澄2, 石塚 修1

Tomonori MINAGAWA1, Teruyuki OGAWA1, Masahiro KUROZUMI2, Akira FUJITA2, Kenji SUZUKI2, Masumi KADOYA2, Osamu ISHIZUKA1

1信州大学医学部泌尿器科学教室, 2信州大学医学部附属病院放射線科

1Urology, Shinshu University Hospital, 2Radiology, Shinshu University Hospital

キーワード :

【諸言】
前立腺梗塞は臨床的に認識しがたい病態である.文献的には尿路と関連しない手術後や骨盤内の血行再建の後に発症した尿閉として報告されている.報告が稀なうえ診断しがたく,臨床経過が明らかでないという問題が挙げられる.今回我々は,骨盤内動静脈奇形に対する経動脈的塞栓術後に発症した前立腺梗塞の一例を経験した.塞栓術後に排尿障害と勃起機能障害を認め,カラードプラ超音波検査で診断した.稀な病態の経過を詳細に追うことが可能であったので報告する.
【症例】
30歳台,男性.受診3ヶ月前に左側腹部,背部痛があり,左尿管結石の診断で治療を受けた.その際のCTで偶然,右内腸骨動静脈奇形を認めた.放置した場合には肺高血圧となる可能性があり,経動脈的塞栓術を施行した.術翌日より,右臀部の違和感と陰茎昆布の痛みを認めた.視診上,臀部に左右差,右側の腫脹,出血斑を認めたが,術1カ月後に消失した.一方,塞栓術翌日から排尿障害,勃起機能障害を認め,2週間後に肉眼的血尿を認めた.膀胱鏡を施行したところ,前立腺部尿道および膀胱頸部右側に出血を伴う壊死組織を認めた.同日,経直腸超音波検査で前立腺を観察すると,前立腺右葉のエコー輝度が低下し,カラードプラで血流の低下を認めた.経動脈塞栓術後の前立腺梗塞と診断した.重篤な排尿障害がないことを確認し,経過観察を行った.徐々に排尿障害が軽快し,術後5か月後の膀胱鏡で,膀胱頚部右側に瘢痕を認めたが,壊死・出血は軽快していた.超音波検査で前立腺右葉の委縮とエコー輝度の低下を認めた.経過中,排尿障害は徐々に軽快したが,勃起機能の障害が遷延した.排尿障害の治療,および虚血性尿生殖器障害に対してタダラフィルを投与したところ,性機能にも若干の回復を認めた.術後8カ月経った現在も加療中である.
【考察】
本症例は盤内動静脈奇形に対する経動脈的塞栓術後に発症した前立腺梗塞の一例であった.梗塞の結果として前立腺の部分的な壊死を伴って,排尿障害,勃起機能障害,肉眼的血尿を認めた.また,超音波検査と膀胱鏡で経過を観察することにより,急性期の組織壊死から,慢性期の組織萎縮までの経過を症状と合わせて経過を追うことができた.前立腺の梗塞は臨床的な認知が困難であるので,本症例で自然経過を観察することができたことは非常に教訓的であった.