英文誌(2004-)
一般口演 甲状腺
甲状腺
(S668)
甲状腺乳頭癌diffuse follicular variantの一例
A case of diffuse follicular variant of papillary thyroid carcinoma
藪田 智範1, 廣川 満良2, 太田 寿3, 東山 卓也1, 福島 光浩1, 小林 薫1, 宮内 昭1
Tomonori YABUTA1, Mitsuyoshi HIROKAWA2, Hisashi OTA3, Takuya HIGASHIYAMA1, Mitsuhiro FUKUSHIMA1, Kaoru KOBAYASHI1, Akira MIYAUCHI1
1隈病院外科, 2隈病院病理診断科, 3隈病院臨床検査科
1Surgery, Kuman Hospital, 2Diagnostic Pathology, Kuma Hospital, 3Clinical Laboratory, Kuma Hospital
キーワード :
【はじめに】
甲状腺濾胞型乳頭癌は,一般的には単発性の腫瘤を形成するが,きわめてまれに甲状腺にびまん性に,あるいは多結節性に伸展することがある.これをdiffuse or multinodular follicular variantといい,甲状腺腫瘍のWHO分類では甲状腺濾胞型乳頭癌の亜型として記載されている.この亜型は通常型乳頭癌よりリンパ節転移や遠隔転移をきたしやすいと報告されている.今回我々は,この極めてまれな亜型を経験したので,その超音波像と病理診断について報告する.
【症例】
52歳の女性,人間ドックの頸部超音波検査で甲状腺左葉に微細石灰化像を指摘された.甲状腺機能は正常であり,血中サイログロブリン値は126.8 ng/mlであった.超音波検査では,甲状腺左葉上極に粗大な石灰化,左葉全体に広がる微細多発高エコー像を認め,左側内深頸領域に転移を疑う腫大リンパ節を多数認めた.超音波上はびまん性硬化型乳頭癌を思わせる所見であった.左葉およびリンパ節からの穿刺吸引細胞診ではいずれも乳頭癌を示唆する細胞を認めた.甲状腺乳頭癌の診断で甲状腺全摘術+D2aが施行された.術後の病理組織検査では,濾胞状に増殖する乳頭癌が小結節を形成しながら左葉全体に広がっており,甲状腺乳頭癌,diffuse follicular variantと診断された.術後1年で頸部リンパ節再発を来たし,リンパ節郭清術が施行された.
【考察】
今回経験したdiffuse follicular variantは,びまん性硬化型乳頭癌と極めて類似した超音波像を示した.ただしびまん性硬化型乳頭癌と異なる所見は,(1)頸部軟X線撮影では多発する点状高吸収域は同定できないこと,(2)摘出標本の軟X線撮影では多発する点状高吸収域が描出され,超音波所見と一致していたが,高吸収域の形状や密度が異なることであった.点状高吸収域が何に由来するのかは不明であるが,軟線撮影が鑑別に有用かもしれない.本亜型は乳頭癌の中でもリンパ節転移と肺・骨などへ遠隔転移をきたしやすいと報告されており,さらに厳重な経過観察を要する.