Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 産婦人科
母体・婦人科 

(S656)

嚢胞穿刺後子宮頸部切除術に引き続いて子宮全摘術を施行した9cmの子宮頸部嚢胞の1例

A case of cystic mass in the uterine cervix of 9cm in diameter; Hysterectomy is performed for relapse of cystic mass post uterine cervical conization

生田 明子1, 溝上 友美1, 石原 美由希1, 久松 洋司1, 吉村 智雄1, 保坂 直樹2, 和田 栄里子3, 安田 勝彦1, 神崎 秀陽1

Akiko IKUTA1, Tomomi MIZOKAMI1, Miyuki ISHIHARA1, Yoji HISAMATSU1, Tomoo YOSHIMURA1, Naoki HOSAKA2, Eriko WADA3, Katsuhiko YASUDA1, Hideharu KANZAKI1

1関西医大産婦人科, 2関西医大香里病院病理部, 3西野レディースクリニック

1Department of Obstetrics and Gynecology, Kansai Medical University, 2Department of Pathology, Kansai Medical University, Kori Hospital, 3Department of Gynecology, Nishino Lady’s Clinic

キーワード :

【はじめに】
ナボット嚢胞(Nabothian cyst)は,子宮腟部びらんの修復過程において,頸管腺の開口部が閉鎖されてその分泌物が貯留して形成された嚢胞であり,通常数ミリから1.5cm程度の嚢胞として描出される.今回,約9cmの子宮頸部嚢胞に対し,超音波ガイド下に嚢胞穿刺後子宮頸部円錐切除術を行ったが,徐々に嚢胞の増大を認め子宮全摘術を施行した症例を報告する.
【症例】
43歳,女性,2経産.約3ヶ月前から下腹部腫瘤感および頻尿を認め,近医婦人科を受診し,90mmの卵巣嚢腫と複数の小さな子宮筋腫を指摘され,精査加療目的で当科受診となった.当科初診時,経腟超音波検査上,右附属器部に3mmの隔壁を有する90mmの嚢胞性腫瘤(多房性右卵巣嚢腫疑)と子宮体部に40mm以下複数の漿膜下,筋層内子宮筋腫を認めた.骨盤部造影MRI検査では,両側附属器に腫大はみられなかったが,子宮頸部前壁内に多数の小嚢胞を伴う90mmの嚢胞性腫瘤を認めた.腟分泌物は非水様性であり,子宮頸部細胞診はAGC(炎症性背景の中に異型化生細胞と核不整細胞の目立つ頸管細胞を認める),また,体部細胞診は陰性再検であった.腫瘍マーカー(CA125,CA19-9,CEA,AFP)は基準値内だったが,ナボット嚢胞や子宮頸部悪性腺腫との鑑別は困難であった.したがって,子宮頸部嚢胞に対し病理診断および症状改善目的で,子宮頸部円錐切除術を予定した.腰椎麻酔下で,砕石位後,経腟超音波ガイド下に子宮頸部前壁嚢胞を穿刺し,やや粘度のある透明な内溶液を約450ml排液した.嚢胞部が縮小した後,ひきつづき超音波メスを用いて子宮頸部円錐切除術,頸管および体内膜掻爬術を施行,10gの子宮頸部を切除した.嚢胞内溶液の細胞診所見は陰性(上皮細胞はみられず好中球を少量認めるのみ),また,術後病理組織検査において,子宮頸部は,強い炎症像を背景に著明な扁平上皮化生を伴った頸管組織であり,明らかな腫瘍性や悪性には乏しく,また,頸管および体内膜にも悪性所見は認めない という結果であったため経過観察とした.しかし,子宮頸部円錐切除術約1ヶ月後の経腟超音波検査で子宮頸部に28mmの嚢胞を認め,その約1ヶ月後には33mm,円錐切除術約4ヶ月後には,嚢胞は61mmとさらに増大を認めた.しかし,いずれも間質部に血流はみられなかった.術前にAGCであった子宮頸部細胞診は陰性だったが,頸部嚢胞根治治療目的で子宮頸部円錐切除術から約9ヶ月後に子宮全摘術を施行した.全身麻酔下で腹腔鏡下手術として開始,子宮体部に4cm以下,複数の漿膜下,筋層内筋腫と子宮頸部右側に6cmの嚢胞を認めた.頸部嚢胞により視野が不良なため,嚢胞内溶液を穿刺吸引し,経腟操作を行いながら腹腔鏡補助下子宮全摘術を施行,292gの子宮を摘出した.子宮頸部嚢胞の病理診断では,拡張した頸管腺構造は異型に乏しく深部に至る嚢胞性変化であることからDeep nabothian cyst(深部ナボット嚢胞)が疑われた.術後約3年5ヶ月経過した現在,腟断端部の細胞診をはじめ異常は認めていない.
【考察】
ナボット嚢胞の大きさは,一般的に数mmから1.5cm程度といわれているが,まれに大きくなることがあり,附属器腫瘤や子宮頸部悪性腺腫との鑑別を要する.本症例においても,初診時は卵巣嚢腫との鑑別が困難であった.最終的に子宮全摘術をするに至ったが,手術操作を安全に遂行するために子宮頸部円錐切除術に先立ち超音波ガイド下で嚢胞を穿刺したことや,経過をみる上で嚢胞間質部における血流の有無を確認することは有用であった.