Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 産婦人科
母体・婦人科 

(S653)

周産期心筋症発症後左室駆出率低下のまま妊娠した慢性心不全合併妊娠高血圧腎症の一例

A case of preeclampsia complicated by chronic heart failure with persistent left ventricular systolic dysfunction after peripartum cardiomyopathy

松木 貴子, 田中 和東, 辻本 麻美, 松木 厚, 札場 恵, 和田 夏子, 西本 幸代, 中村 博昭, 中本 收

Takako MATSUKI, Kazuharu TANAKA, Asami TSUJIMOTO, Astushi MATSUKI, Megumi FUDABA, Natsuko WADA, Sachiyo NISHIMOTO, Hiroaki NAKAMURA, Osamu NAKAMOTO

大阪市立総合医療センター産科

Depertment of Obstetrics, Osaka City General Hospital

キーワード :

【緒言】
周産期心筋症(peripartum cardiomyopathy: PPCM)は,明らかな心疾患の既往のない健康な女性が妊娠最終月から分娩後5ヵ月までに発症する拡張型心筋症の一亜型である.周産期心筋症は一般的に比較的稀な疾患であると考えられているが,発症した母体の致死率が高く,適切な治療が非常に重要な疾患である.一般には,分娩後に心収縮力が正常化した例では,再度の妊娠・出産は可能であると考えられるが,産褥心筋症の既往のない妊婦よりも,心不全の再発のリスクが高く,胎児と母体の予後が不良であることも指摘されている.今回周産期心筋症発症後,左室駆出率(Ejection Fraction: EF)が低下したまま妊娠した慢性心不全合併妊娠高血圧腎症の一例を経験したので報告する.
【症例】
44歳,女性,5経妊5経産.助産院にて第5子を分娩.その3週間後に呼吸困難感を自覚し,他院救命科を紹介受診.胸部レントゲンにてうっ血性心不全と診断され,心臓超音波検査でEFは35〜40%と著明に低下していた.CCU管理にて利尿薬,硝酸薬及びカルペリチドにて治療を行い,心不全は軽快した.心臓カテーテル検査所見上,冠動脈には有意な狭窄を認めず,右室心筋生検にて,心筋一部の線維化とリンパ球浸潤を認め,病理組織診断にて心筋炎と診断.明らかな心疾患の既往がないことから周産期心筋症と診断された.分娩2ヶ月後の心臓超音波検査にてEF35〜40%と回復しておらず,ACE阻害剤とβ阻害剤の治療が必要であることを十分に説明したが,授乳希望のため治療を拒否し,その後通院せず.妊娠25週5日(分娩9ヶ月後)に助産制度利用のため,保健所より当院を勧められ受診.受診時軽症高血圧を認め,一時尿で2回続けて軽症蛋白尿を認めたため,妊娠高血圧腎症軽症(hp-EO)と診断し,妊娠26週3日より入院管理.妊娠27週5日の心臓超音波検査上,左室のびまん性収縮障害を認め,EF42%と低下し機能回復を呈していなかった.その後も心臓超音波検査でのEF及びNT-proBNP(N-terminal of the prohormone brain natriuretic peptide:ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント)を指標とし,入院安静の上,厳重に経過観察.EFは38〜50%,NT-proBNPは35〜105pg/mlと著変を認めなかった.妊娠37週5日前期破水を認め,妊娠37週6日より分娩誘発し陣痛発来.妊娠38週0日分娩停止の適応にて緊急帝王切開術施行.2762g,男児,Apgar Score 1分値8点,5分値9点を娩出.術後2日間ループ利尿薬を少量持続投与し治療.術後11日目のEF41%,NT-proBNP353pg/mlで,術後一時的な肝酵素上昇は認めたが,術後14日目に母児ともに無事退院となった.
【まとめ】
周産期心筋症患者のうち,分娩後もEF50%以下が継続する症例では,
再妊娠により心機能が悪化して死亡する率も高く,避妊が強く勧められている.万が一妊娠してしまった場合は,心機能保全の目的で,入院安静の上,厳重な管理が必要であると考えられた.