田口 貴子¹, 米谷 直人¹, 中嶋 えりか¹, 山本 亮¹, 村田 将春², 石井 桂介¹, 光田 信明¹

Takako TAGUCHI¹, Naoto YONETANI¹, Erika NAKAJIMA¹, Ryo YAMAMOTO¹, Masaharu MURATA², Keisuke ISHII¹, Nobuaki MITSUDA¹

¹大阪府立母子保健総合医療センター産科, ²九州大学病院産科

¹Obstetrics, Osaka Medical Center and Research Institute for Maternal and Child Health, ²Obstetrics, Kyusyu University Hospital

キーワード :

【目的】
分娩第2期に児頭下降が十分でない症例において，経会陰超音波所見の児娩出までに要する時間の予測における有用性を検討する．
【対象・方法】
当院にて後方視的観察研究として行った．2013年10月から1年間に妊娠37週以降の頭位経腟分娩において，内診にて子宮口全開大と診断された時点の児頭下降度（St）が+1またはそれより高い状態であった単胎症例を対象とした．子宮口全開大と診断した際に，Stと児頭回旋を内診により評価した．児頭回旋は矢状縫合の垂線に対する傾きで評価し，前方後頭位を0°，後方後頭位を180°として30°毎に6群に層別化した．また経会陰的に超音波3D volume dataをVoluson S8^®（GE healthcare, UK）を用いて保存した．単一の検者がSonography based Volume Computer Aided Display labor（Sono VCAD labor^®）を用いて，Angle of progression（AoP:矢状断面で，恥骨下端から児頭蓋にひいた接線と，恥骨長軸からなる角度）とMidline angle（MLA:横断面で，母体骨盤前後方向と児の矢状縫合からなる角度）を測定した．超音波検査後120分以内の児娩出に対する，St，児頭回旋，AoP，MLAの調整オッズ比（aOR）を算出した．aORは母体年齢，分娩時BMI，初経産，分娩第一期におけるオキシトシン静注による陣痛促進の有無，無痛分娩の有無を調整因子として，多変量ロジスティック回帰分析を用いて算出した．また自然経腟分娩に至った症例のみを対象に同様の検討をおこなった．
【結果】
検討対象は236例であった．初産婦が152例（64％），分娩時年齢，分娩時BMIの中央値はそれぞれ33歳，24.8，分娩第一期陣痛促進が85例（36％），無痛分娩が27例（11％）であった．分娩様式は自然経腟分娩が192人，器械分娩が35例，緊急帝王切開が9例であった．超音波検査から児娩出までの時間は中央値72分であり，181例（77％）が超音波検査後120分以内に児娩出となった．AoP，St，MLA，児頭回旋のaORはそれぞれ，1.35［95％信頼区間（CI）, 1.11-1.66，P=0.002］，1.27（95％CI, 0.88-1.82，P=0.203），0.91（95％CI, 0.80-1.02，P=0.111），0.64（95％CI, 0.42-0.99，P= 0.043）であった．自然経腟分娩例のみを対象とした検討では，157例（82％）が超音波検査後120分以内に児娩出となった．AoP，St，MLA，児頭回旋のaORはそれぞれ，1.35（95％CI, 1.05-1.72，P=0.019），1.46（95％CI, 0.93-2.30，p=0.097），0.92（95％CI, 0.80-1.06，P=0.243），0.57（95％CI, 0.33-0.97，P=0.038）であった．
【考察・結論】
分娩第2期に児頭下降が十分でない症例において，AoPと児頭回旋は検査後120分以内の児娩出と有意に関連した．分娩までに要する時間の予測には，内診による児頭下降度より経会陰超音波AoPが有用かもしれない．