Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 産婦人科
胎児異常② 

(S641)

常染色体劣性多嚢胞腎の出生前診断:同胞内再発の1例

Prenatal diagnosis of autosomal recessive polycystic kidney disease: A recurrence case in siblings

松尾 聖子

Seiko MATSUO

豊橋市民病院産婦人科

Obstetrics and Gynecology, Toyohashi Municipal Hospital

キーワード :

【はじめに】
常染色体劣性多嚢胞腎(ARPKD)は,10,000〜40,000人に1人の頻度といわれており,遺伝子頻度は1/70と報告されている.同胞が本疾患であった場合,次子が本疾患である確率は1/4である.胎児超音波所見では,高輝度エコーを呈する腎臓は早ければ12〜16週で出現するとされ,その後24週頃までに遅れて腎腫大が出現することが多いといわれている.このため同胞内再発でない限り,妊娠早期の発見は困難とされている.ARPKDの同胞内再発を14週から疑うことができた症例を経験したため,文献的考察を加え報告する.
【症例報告】
20代,未経産,自然妊娠.既往歴虫垂炎と白内障.31週の妊婦健診で両側腎腫大,羊水過少を認め,32週で当院紹介となった.当院でも両腎臓ともに高輝度エコーで腫大しており,羊水過少と胸郭低形成を認め,常染色体劣性多嚢胞腎疑いで慎重にフォローしていた.38週陣痛発来し,新生児科の医師立ち会いのもと経腟分娩にて2424gの女児が出生した.出生後すぐに挿管し,Apgar score 1/7(1分/5分)であった.気胸を繰り返し,無尿であり,呼吸不全で日齢2に死亡した.外表奇形はみられず,染色体検査は46XXであった.病理解剖,遺伝子検査は施行しなかった.
その後すぐに第2子を妊娠.14週で腎臓が高輝度エコーを呈し,18週で腎腫大がみられ,本児も罹患している可能性が高く,セカンドオピニオンで他院受診.やはり常染色体劣性多嚢胞腎が疑われ,21週で中期中絶となった.児は男児であった.経過から常染色体劣性多嚢胞腎が疑われるが,診断基準に病理学的に診断された同胞の存在とあり,前児は解剖を行っていないため,診断を確定させて次子の治療につなげるために十分なインフォームドコンセントを行ったうえで病理解剖を施行した.両腎の尿細管拡張に加え肝内胆管の拡張も認め,常染色体劣性多嚢胞腎と診断された.
現在第3子を妊娠中であり,16週時点で異常を認めていないが,注意深い経過観察が必要である.
【考察】
ARPKDは胎児期から診断される症例では新生児期早期に死亡してしまうことが多い重篤な疾患である.本症例では14週から腎臓が高輝度エコーを呈し,18週から腎腫大を認め,倫理的には問題があるかもしれないが十分なカウンセリングのもと中期中絶の方針も提示することができた.本症例は第1子の臨床診断があったため妊娠早期からARPKDを疑うことができたが,症例報告では25週以降で診断された症例がほとんどである.また,ARPKDと鑑別を要する疾患として他の嚢胞性腎疾患や先天性ネフローゼ症候群などがある.日本では時間と費用の負担が大きくあまり行われていないが,遺伝子検査も最近では行われており,確定診断や出生前診断としての確立が必要と思われた.