Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 産婦人科
胎児異常② 

(S640)

超音波断層法にて疑われた胎児卵巣嚢腫茎捻転の一例

Diagnosis and management of an ovarian cyst complicated by torsion in utero: A case report

松木 厚, 田中 和東, 松木 貴子, 辻本 麻美, 札場 恵, 和田 夏子, 西本 幸代, 中村 博昭, 中本 收

Atsushi MATSUKI, Kazuharu TANAKA, Takako MATSUKI, Asami TSUJIMOTO, Megumi FUDABA, Natsuko WADA, Sachiyo NISHIMOTO, Hiroaki NAKAMURA, Osamu NAKAMOTO

大阪市立総合医療センター産科

Departmet of Obstetrics, Osaka City General Hospital

キーワード :

【緒言】
卵巣および生殖器系の異常は新生児腹部腫瘤の約20%とされる.胎児卵巣嚢腫の原因の多くは,胎児のゴナドトロピンや母体のエストロゲン,胎盤由来のhCGなどによる胎児卵巣の刺激によるものと考えられており,妊娠30週頃でその作用が最大となるため28週以後に診断されることが多い.出生後これらの作用が減少することにより半数以上が自然消退する.このため経過観察されることが多いが,成人と同様に茎捻転を起こすことも知られている.茎捻転を起こした場合,嚢腫内出血による胎児貧血,生じた腹水による呼吸窮迫,腸管との癒着による腸閉塞などの重篤な合併症が報告されており,茎捻転と診断した際には厳重な経過観察が必要である.今回われわれは超音波断層法で胎児期に卵巣嚢腫を認め,経過観察中に茎捻転と考えられた症例を経験したので報告する.
【症例】
35歳,女性,1経妊1経産,自然妊娠成立.前医にて妊娠管理.妊娠33週の妊婦健診にて,腹部超音波検査で胎児腹腔内腫瘤を指摘され,胎児卵巣嚢腫の疑いで妊娠33週1日に当院紹介受診.初診時の経腹超音波所見上,児は女児で,胎児腹部左側に4.2×4.0cmの嚢胞性病変を認めた.両側腎盂及び尿管の拡張を認めず,膀胱も同定可能であった.消化管の拡張も認めなかったため,胎児左卵巣嚢腫の疑いと診断した.妊娠35週2日の経腹超音波所見上,腹部嚢胞は5.8×4.3×5.2cmと増大傾向を認め,内部に隔壁があり,低輝度領域と高輝度領域の混在する嚢胞性腫瘤を認めたため,胎児卵巣嚢腫茎捻転の疑いと診断し,妊娠35週5日より入院管理となった.入院管理後は嚢腫の増大を認めず,中大脳動脈のPSV(Peak Systolic Velocity)も1.5MoMの範囲内で胎児貧血を疑う所見を認めなかった.NST(Non Stress Test)上もReassuring Fetal Statusであったため,経過観察とした.妊娠36週の胎児MRI所見上,左付属器領域に多房性腫瘤を認めた.妊娠37週2日に陣痛発来となったが,分娩停止の適応にて,緊急帝王切開術を施行.児は3390g,Apgar Score 1分値8点,5分値9点であった.児は出生後,日齢0に腹部超音波検査を施行し,臍部付近に最大径5cm大の多房性腫瘤を認めた.日齢4の造影CTでも同様に多房性腫瘤を認めたため,日齢6に左付属器摘出術を施行.左付属器は肉眼的に壊死を認めた.病理組織学的にも壊死に陥った卵巣腫瘍との診断であった.術後経過は良好で日齢16に退院となった.
【まとめ】
今回超音波断層法にて腫瘍増大や低輝度領域と高輝度領域の混在する嚢胞性腫瘤を認めたため,胎児卵巣嚢腫茎捻転を疑った症例を経験した.胎児卵巣嚢腫の多くが機能的な嚢胞であるため通常は胎児期に診断されても生命の危機的状況であることはほとんどなく,悪性や新生物を考える必要もほとんどないとされているが,胎児が卵巣腫瘍茎捻転を発症した場合,成人と異なり全身状態の把握が困難である.超音波断層法にて,卵巣嚢腫茎捻転を疑ったことで,中大脳動脈のPSV測定による貧血の有無やNSTにて胎児状態を把握することができ,安全に管理することが可能であった.