Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 産婦人科
胎児異常① 

(S638)

胎児脳血流異常を認めたサイトメガロウイルス感染症の一症例

Cytomegalovirus infection in pregnancy with fetal cerebral blood flow abnormalities: A case report

永井 立平, 林 和俊

Ryuhei NAGAI, Kazutoshi HAYASHI

高知医療センター産科

Obstetrics, Kochi Health Sciences Center

キーワード :

【はじめに】
サイトメガロウイルス(以下CMV)感染症は,TORCH症候群の中で最も高頻度に胎児感染を起こし乳幼児に神経学的な障害を来す疾患と言われているが,妊婦に対する胎児感染予防や胎児治療は未だ確立していない.感染した児の80%以上は無症候性であり出生児に障害を来すことは少ない(10〜15%)が,症候性の胎児の実に90%以上に精神遅滞,運動障害,難聴などの障害を来すと言われている.CMV抗体スクリーニングはその治療法が確立されていないことから推奨されていないが,一方で症候性CMV感染児に対してガンシクロビル(GCV)などの抗ウイルス薬治療によって児の予後を改善し得た報告もある.
【症例】
23歳,初産婦,妊娠33週の妊婦健診までは特に大きな異常を認めていなかった.妊娠35週妊婦健診時の超音波検査で2週間胎児発育を認めず臍帯動脈の血流途絶を認めたため,胎児発育不全,胎児機能不全の診断で35週4日当院へ搬送となった.当院での超音波検査では前医での所見に加え中大脳動脈血流PI値0.75,PSV 70cm/sと脳血管抵抗減少を示唆する所見を認めた.また心拡大(CTAR 35.7%),3 vessel viewで大動脈径<上大静脈径であり,心容量負荷を来すAVシャント疾患や胎児貧血の可能性を考慮した.胎児心機能異常,弁血流異常,静脈管血流異常は認めず胎児腔水症もなかった.肝腫大,脳室拡大,石灰化など典型的なCMV感染を疑う所見は認めなかった.胎児MRIで明らかな器質的シャント疾患は否定的であり原因不明胎児機能不全として緊急帝王切開分娩とした.児に貧血はなく心機能異常は認めなかったが血小板低下,凝固異常など重症DICの状態だった.母体血CMV-IgM陽性,胎盤病理でCMV感染を認め,最終的に新生児尿CMV-PCR陽性であり先天性CMV感染症と確定診断した.現在GCVにより治療中である.
【考察】
CMV感染から時間経過が短いと考えられる症候性CMV感染症の一例を経験した.本症例では週数から児娩出後確定診断・治療の方針としたが,週数によっては娩出の選択は難しい症例もあることが予想される.超音波検査による胎児CMV感染早期発見の意義については分かっていないが,原因不明の脳血流異常や心拡大の所見がある場合にはCMV感染症の確定とその後の胎児治療も視野に入れ羊水穿刺や胎児採血など積極的な検査を考慮しても良いのでは無いかと考える.