Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 産婦人科
胎児心臓② 

(S634)

Dual Dopplerを用いた胎児左心房血行動態解析の試み

An attempt to analyze fetal left atrium hemodynamics using dual-Doppler ultrasound

市瀬 茉里, 樋口 紗恵子, 手塚 真紀, 後藤 美希, 坂巻 健, 小林 浩一

Mari ICHINOSE, Saeko HIGUCHI, Maki TEZUKA, Miki GOTOU, Ken SAKAMAKI, Kouichi KOBAYASHI

東京山手メディカルセンター産婦人科

Obstetrics, Tokyo Yamate Medical Center

キーワード :

【目的】
胎児左心房流出入血流には,僧房弁・肺静脈に加えて,卵円孔を介した血流が関与する.肺静脈の血流速度波形は,こうした流出入血流による左房圧の変化を間接的に反映していると考えられる.実際Taketazuらは,左心低形成症候群において,肺静脈血流速度波形の解析によって卵円孔の開大度や重症度,また予後の予測が可能であると報告している.それらの血流波形の位相差解析を行うことにより,胎児左心系循環の生理を明らかにすることを目的として検討を行った.
【方法】
母児共に合併症を有しない,在胎20週から35週の正常胎児を対象とした.日立アロカ社(ARIETTA 70)dual Dopplerを用いて,肺静脈と僧房弁血流4例,肺静脈と卵円孔血流4例について,二箇所の血流波形の同時計測を行った.血流方向とDopplerの成す角度は30度以内とした.対象母体からは文書による同意を得た.
【結果】
肺静脈波形は左房へ流入する心収縮期のS波と心拡張期のD波で構成されることが確認された.僧房弁血流は左房から流出する二峰性血流を呈した.僧帽弁血流の一峰目のピークは,肺静脈D波のピークに一致していた.また二峰目のピークは,肺静脈D波の終止点に一致していた.さらに僧房弁血流二峰目の終止点は,肺静脈S波ピークに一致していた.一方卵円孔血流は,心収縮期に順行性の二峰性血流を呈し,心拡張期に順行性血流の後に逆行性血流を示した.卵円孔の血流方向変換点は,肺静脈D波の終止点に一致していた.卵円孔血流順行波一峰目のピークは,肺静脈S波ピークに一致していた.こうした時間的な一致は,観察した妊娠週数によらず一定であった.
【考察】
左心房収縮が最大となる時には,左心房内圧上昇により,肺静脈血流入が減少し,卵円孔血流が左→右に変換されると考えられた.左心房と左心室内圧が等しくなり僧房弁が閉鎖する時には,肺静脈・卵円孔共に左房内への流入がピークとなると考えられた.dual Dopplerは,単独で検討されてきた血流波形の比較を可能にし,血行動態の正確な把握に有用であった.今後,肺静脈血流速度波形の詳細な解析により今まで胎内診断が困難であった心房中隔欠損例や,卵円孔早期閉鎖例などの,診断及び心機能評価に応用できる可能性がある.