牛島 恭子¹, 村上 京子², 村上 俊雄², 川滝 元良³

Kyoko USHIJIMA¹, Kyoko MURAKAMI², Toshio MURAKAMI², Motoyoshi KAWATAKI³

¹佐世保晩翠会村上病院臨床検査技師, ²佐世保晩翠会村上病院産婦人科, ³東北大学大学院医学系研究科融合医工学分野

¹Clinical Laboratory Technologist, Murakami Hospital, ²Obstetrics and Gynecology, Murakami Hospital, ³Graduate School of Medicine Fusion Medical Engineering, Tohoku University Graduate School

キーワード :

【はじめに】
先天性心疾患（CHD）は100人に1人に見られる頻度の多い先天異常である．近年の超音波医学の進歩とスクリーニングの普及により多くのCHDがスクリーニングされるようになってきた．しかしながら，完全大血管転位症（TGA）など一部のCHDではスクリーニング率は低率である．今回我々は，当院で行っている胎児スクリーニングの現状を明らかにする目的で，胎児診断症例を後方視的に検討した．また，胎児スクリーニングされたTGAの1症例を経験したので報告する．
【対象・方法】
当院は，年間約500例の分娩を扱っている佐世保市の産科専門病院である．妊娠20週・30週・36週前後の全妊婦を対象として，検診時に1人の臨床検査師が胎児スクリーニングを行っている．スクリーニングされた症例は，近隣の高次医療機関に紹介され，小児循環器科医により精査が行われている．2012年1月から2014年11月までの3年間に当院でスクリーニングされたCHDを後方視的に検討した．
【結果】
1）3年間で1624例に対して，約4060回の胎児スクリーニングを行い，23例のCHDを発見した．2）CHDの内訳は，心室中隔欠損（VSD）13例，房室中隔欠損（AVSD）2例，血管輪2例，ファロー四徴症（TOF），左心低形成症候群（HLHS），単心室に合併した総肺静脈環流異常（TAPVD），エプスタイン病，TGA，心内奇形をともなわない全内臓逆位，各1例ずつであった．偽陰性は，VSD11例，TOF1例であった．3）年次推移は，2012年6例，2013年6症例，2014年11症例であった．
【考案】
VSDをのぞく多くの重症CHDのほとんどはスクリーニング出来ていた．VSDを含めた全CHDは1.4％となり，一般的に言われているCHDの頻度に比べるとやや高率であった．H26年より新たな超音波装置が導入され，これまで偽陰性の多かった心室中隔欠損の検出率が75％に上がった．適切な画像の描出技術はもとより，装置の画質・フレームレートもスクリーニング率を上げる大きな要因となっている．
産科専門の一時産科病院においても，超音波技師による胎児心スクリーニングは，母親に出産までの児の受け入れの時間をつくる事ができる．出生直後に急変をきたす心疾患を出生前に高次医療機関に紹介できるなどメリットが多いと考えられる．
【症例】
妊娠20週3日，1妊1産，スクリーニングにおいて，左室流出路より肺動脈・右室流出路より大動脈の走行異常，3VW並びの異常，小さな心室中隔欠損ありの所見で，TGAを疑って小児循環器科へ紹介した．心室中隔欠損は認められずTGAⅠ型と診断されその後，高次医療機関にて在胎38週1日に2700g男児を帝王切開にて出産した．出生後全身チアノーゼ，SPO2は30〜40％　PDA3.5mmあったが，心房間交通はごくわずかで1mm程度あり，緊急BASの適応となり施行された．BAS後SPO2は上昇し日齢8日にJatene手術を施行された．日齢28日地元の総合病院小児循環器科に転院となった．この症例をふりかえり，妊娠20週3日のスクリーニング時の卵円孔・動脈管の状態を検討してみたところ，卵円孔は3mm程度で左房側に凸で確認され，動脈管の血流も順行性に確認することができた．今回経験したTGAは，四腔断面像では全く正常画像で確認されるため，発見には流出路の観察が重要であった．
【結語】
ローリスク妊婦全例を対象とした検査技師による胎児心スクリーニングは先天性心疾患を効率よくスクリーニングできていた．