Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 消化器
膵臓① 

(S615)

CTPV(cavernous transformation of the portal vein)を伴ったびまん性膵癌の1例

A Case of Diffuse Invasive Pancreas Cancer with Cavernous Transformation of the Portal Vein

小川 ゆかり1, 金輪 智子1, 小宮 雅明1, 鵜澤 綾奈1, 若杉 聡2, 石田 秀明3, 濱滝 壽伸4

Yukari OGAWA1, Tomoko KANAWA1, Masaaki KOMIYA1, Ayana UZAWA1, Satoshi WAKASUGI2, Hideaki ISHIDA3, Yoshinobu HAMATAKI4

1亀田メディカルセンター超音波検査室, 2亀田メディカルセンター消化器診断科, 3秋田赤十字病院超音波センター, 4東芝メディカルシステムズ株式会社超音波担当

1Ultrasonography Room, Kameda Medical Center, 2Department of Gastroenterology Diagnosis, Kameda Medical Center, 3Center of Diagnostic Ultrasound, Akita Red Cross Hospital, 4Department of Ultrasound System Group, Toshiba Medical Systems Corporation

キーワード :

【症例】
65歳女性
【主訴】
2週間以上持続する下痢
【現病歴】
2012年4月に口腔内乾燥感を主訴に総合診療科を受診し,1型糖尿病と診断された.その際の腹部超音波検査では膵臓に異常所見を認めなかった.その後,糖尿病の治療で当院に通院していたが,2013年7月に2週間以上持続する下痢を主訴に,総合診療科を受診した.診察時,上腹部に3cm程度の腫瘤が触れ,腹部超音波検査を施行したところ膵癌が疑われたため,消化器内科へ紹介となり精査加療目的で入院となった.
【既往歴】
1型糖尿病,胃潰瘍,虫垂炎(手術)
【家族歴】
兄が胆管癌,姉が大腸癌
【生活歴】
喫煙10本/日(40年間)
【初診時血液検査】
空腹時血糖:165mg/dl,アミラーゼ:265IU/l,CA-19-9:666.0U/ml,CA125:46U/mlと高値だった.
【腹部超音波検査】
膵頭部から体部は腫大し,輪郭に不整な凹凸を認めた.主膵管は描出困難であった.腹腔動脈,脾動脈,総肝動脈周囲に境界不明瞭な不整形の低エコー域を広範囲に認めた.脾静脈,上腸間膜静脈は同定できず,門脈は先細り状に閉塞していた.膵足側の腸間膜脂肪組織内に拡張した血管を認めた.門脈閉塞部位から,十二指腸下行部周囲に類円形無エコー像を多数認めた.カラードプラ検査で血流信号を認め,CTPVと考えた.以上より,膵鉤部から膵頚部で発症し,門脈,上腸間膜静脈,脾動静脈,腹腔動脈,総肝動脈に浸潤した膵癌と診断した.あきらかな腫瘤を形成していないこと,周囲に進展しているが,膵内胆管や主膵管の拡張を認めないことから,膵外主体にびまん性に浸潤する膵癌と考えた.
【腹部CT・MRI検査】
膵鉤部に軟部腫瘤を認めた.同部で門脈,上腸間膜静脈,脾動静脈が巻き込まれ途絶しており,膵癌を疑った.肝外門脈閉塞による側副血行路の発達を認めた.傍大動脈域の脂肪濃度混濁があり,膵外神経叢浸潤が疑われた.
【臨床経過】
超音波内視鏡下穿刺吸引生検で浸潤性膵管癌と診断された.切除不能進行膵癌と診断され,化学療法が実施された.CT,MRI検査では十二指腸周囲のCTPVの増生が軽度進行したように思われた.8か月後の造影超音波検査では,膵鉤部から膵頚部,腹腔動脈周囲,上腸間膜動脈周囲,門脈,上腸間膜静脈,脾静脈周囲に不整形の造影不良域を認めた.その後腹水が増加し,閉塞性黄疸が出現し,死亡の転帰をとった.
【考察】
膵癌には膵内に腫瘤を形成せずびまん性に浸潤するものや膵の辺縁部から発生した膵癌が主に膵外に向かって浸潤するものが少なからずある.このような進展形式を呈した膵癌は画像で描出されにくく,診断が困難である.本症例も1年前の超音波検査で異常を指摘されず,診断時には広範囲に浸潤する膵癌だった.病変が膵辺縁部に存在し,早期に膵外の結合組織,脈管に浸潤したこと,明らかな腫瘤を形成しなかったことが,進行するまで診断できなかった原因と考えた.膵辺縁部に発生した膵癌は,早期に膵外に浸潤するため,診断されたときは,手術困難な状態であることが多い.このような症例を診断するには,日常検査で膵の辺縁部に注意しながら検査をする心がけが必要と考える.
【結語】
診断時には高度に脈管浸潤し,動脈浸潤,肝外門脈閉塞,CTPVを合併したびまん性膵癌を経験した.本症例を他山の石としていただきたい.