Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 消化器
肝腫瘍(症例報告②) 

(S582)

造影超音波検査が診断に有用であった原発性肝細胞癌の2例

HCC arising from NASH, or normal liver:Report of 2 cases with emphasis on contrast US

片野 優子1, 石田 秀明1, 渡部 多佳子1, 山中 有美子1, 八木澤 仁1, 宮内 孝治2, 吉楽 拓哉3, 榎本 克彦4, 長沼 裕子5, 大山 葉子6

Yuko KATANO1, Hideaki ISHIDA1, Takako WATANABE1, Yumiko YAMANAKA1, Hitoshi YAGISAWA1, Takaharu MIYAUCHI2, Takuya KICHIRAKU3, Katuhiko ENOMOTO4, Hiroko NAGANUMA5, Yoko OHYAMA6

1秋田赤十字病院超音波センター, 2秋田赤十字病院放射線科, 3秋田赤十字病院外科, 4秋田赤十字病院病理部, 5市立横手病院消化器科, 6秋田厚生医療センター臨床検査科

1Center of Diagnostic Ultrasound, Akita Red Cross Hospital, 2Department of Radiology, Akita Red Cross Hospital, 3Department of Surgery, Akita Red Cross Hospital, 4Department of Pathology, Akita Red Cross Hospital, 5Department of Gastroenterology, Yokote Municipal Hospital, 6Department of Medical Laboratory, Akita Kousei Medecal Center

キーワード :

【はじめに】
原発性肝細胞癌(HCC)の背景肝として,肝炎ウイルスやアルコールによる慢性肝疾患が主体を占める.これらの臨床データや超音波上の背景肝に特徴を欠く場合,検出された腫瘍の診断に苦慮する.このような時,造影超音波所見が加わることで腫瘍の超音波診断能が向上すると期待される.そのような2例を若干の考察を加え報告する.診断装置:東芝社製AplioXG.超音波造影剤:sonazoid®(第一三共社)で,造影手順は通常の肝腫瘍のそれに準じた.
【症例1】
60歳代男性.無症状例.ドックの超音波で偶然発見された肝腫瘍の精査目的に当院受診.生化学データはほぼ正常で,肝炎ウイルス陰性,アルコール多飲歴はなかった.超音波所見は肝S2/3中間に18×17mmの孤立性低エコー腫瘍あり.腫瘍境界は明瞭だがhaloや外側陰影,後方エコーの変化は認めなかった.カラードプラ上,腫瘍内に豊富な血流信号あり,その中には明瞭な動脈−門脈短絡を示す箇所が多数みられた.造影超音波上は腫瘍は早期から濃染し,次第に低染域となっていった.これらの所見から,HCCが最も疑われた.CT,MRIでも早期濃染とwashoutから同様の結論に達した.腫瘍切除がなされ,正常肝を基盤にした中分化HCCと最終診断された.
【症例2】
60歳代男性.無症状例.直腸癌術後の定期検査目的に施行した腹部超音波検査で偶然肝左葉に腫瘍が認められ精査となった.肝機能は軽度異常のみで肝炎ウイルス陰性,アルコール多飲歴はなかった.超音波Bモード画像では肝実質は脂肪肝のそれで,S2に45×43mmの孤立性腫瘍を認めた.造影超音波上は腫瘍は早期から濃染し次第に低染域となっていった.これらの所見から,HCCが最も疑われた.術前全身検索で冠動脈狭窄を指摘されたため,PCI後に肝外側区域切除を施行した.組織学的に非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を基盤にした中分化HCCと最終診断された.
【まとめと考察】
画像診断上,背景肝に慢性肝疾患を疑わせる所見がなく,生化学データ上も肝炎ウイルス陰性でアルコール多飲でない場合,描出された腫瘍の質的診断に苦慮することがある.また,最近ではNASHもHCC発生基盤として知られているが,実際の臨床の場では,このHCC合併NASH例は未だ比較的まれであり,画像診断上脂肪肝として表現されることが多い.この様な場合,造影超音波所見を加えることで超音波診断能が向上することは概念としては理解し易いが,実際例はまだ十分ではない.今後この様な症例を集積することは造影超音波検査の有用性を再確認するうえでも有意義である.なお,今回の2例がともに,通常HCCが発生するS8などの右葉ではなく,左葉に病巣があったことは興味深いことであった.また,臨床上,NASH例は代謝異常を伴いやすく,HCCの局所治療以外,全身チェックが特に重要と思われた.