Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 消化器
肝腫瘍(症例報告①) 

(S581)

USにて経過を追えたIgG4関連硬化性胆管炎に合併した肝炎症性偽腫瘍の1例

A case of IgG4-related sclerosing cholangitis with hepatic inflammatory pseudotumor

竹内 有加里1, 松居 剛志2, 佐野 逸紀2, 鈴木 恵1, 遊佐 亨3, 男澤 千啓1, 真口 宏介2

Yukari TAKEUCHI1, Takeshi MATSUI2, Itsuki SANO2, Megumi SUZUKI1, Toru YUSA3, Chiharu OTOKOZAWA1, Hiroyuki MAGUCHI2

1手稲渓仁会病院臨床検査部, 2手稲渓仁会病院消化器病センター, 3手稲渓仁会病院超音波センター

1Department of Medical Laboratory, Teine-Keijinkai Hospital, 2Center for Gastroenterology, Teine-Keijinkai Hospital, 3Center for Ultrasonography, Teine-Keijinkai Hospital

キーワード :

【はじめに】
IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-SC)に合併する肝炎症性偽腫瘍は画像的に肝内胆管癌との鑑別が困難なことが多い.今回,経時的に変化を追うことができたIgG4-SCに合併した炎症性偽腫瘍を経験したので報告する.
【症例】
74歳男性.慢性膵炎,膵石症で前医経過観察中,2010年3月CTにて膵体尾部癌が疑われ,当院消化器病センターに紹介受診.USでは膵体尾部は軽度腫大し,実質エコーレベルの低下と不均一化,全域に膵石を認め,主膵管は3.9mmと不整に拡張していた.胆嚢・胆管に異常所見は認めなかった.EUSでも膵には明かな腫瘤としては描出されず,また膵管造影では自己免疫性膵炎(AIP)にみられるような典型的な狭細像は呈さなかった.EUS-FNAを施行したが,慢性膵炎の像であった.膵癌,AIPが鑑別に挙がったが,確定診断に至らず,慢性膵炎にて経過観察とした.経過観察目的の2013年2月のUSにて,肝S3に13×11mmの低エコー病変を認めた.形状不整,境界不明瞭,内部エコー不均一であり,同部よりも末梢胆管は2.5mmの拡張を呈していた.膵は前回と同様の所見であった.更に2014年9月のUSでは肝S2/3に68×32mmの低エコー腫瘤を認め,前回よりサイズの増大が認められた.内部に既存の脈管を疑う管腔構造を認め,腫瘤の末梢胆管は2.8mmと拡張を呈していた.上部胆管から肝門部,右胆管に著明な壁肥厚を認め,狭窄は認められるものの内腔は保たれていた.また,下部胆管および胆嚢にも壁肥厚と狭窄,内腔の狭小化を認めた.膵は前回と同様の所見であった.血液検査所見はGlu111mg/dl,HbA1c7.8%,CEA6.7ng/ml,CA19-9 47.1U/ml,IgG2690mg/dl,IgG4 1330mg/dlと上昇を示した.胆管生検を行い,病理組織では間質に密な形質細胞浸潤と線維化を認め,IgG4陽性形質細胞は約100個/HPF,IgG4/IgG陽性細胞比は約80%であり,IgG4-SCの診断となった.2014年10月CE-USでは,血管相で腫瘤内の血管構築が明瞭に造影され,腫瘤全体は肝実質とほぼ同程度の染影を示し,後血管相では欠損を呈した.腫瘤内血管は比較的整であった.炎症性の腫瘤を疑ったが,肝内胆管癌の可能性は否定できず,2014年11月肝生検を施行した.組織では,IgG4陽性細胞が多数見られ,IgG4/IgG陽性比率も高く,IgG4関連疾患を疑う所見であった.最終的にIgG4-SCおよび炎症性偽腫瘍と診断し,ステロイドの服用を開始した.2014年11月のUSでは肝腫瘤は61×15mmと縮小し,境界の不明瞭化を認めた.
【考察】
炎症性偽腫瘍と悪性腫瘍との鑑別は困難な場合がある.また肝門部胆管癌の約30%でIgG4陽性細胞を30個以上/HPF認めるとの報告もある.また,IgG4-SCが胆道癌のリスクであるかは不明であるが,炎症性発癌やparaneoplastic syndromeにより一般人口に比べハイリスクである可能性が示唆されている.本例はUSにて肝腫瘤を指摘し,腫瘤サイズの増大,ステロイド治療後の腫瘤の縮小の経過を観察できた.また,CE-USの後血管相ではdefectとなり,Glisson鞘に沿って連続する腫瘤の形状が明瞭に観察でき,さらに腫瘤内に整な血管構築が多数認められたことから,炎症をより強く疑った.但し,今後も腫瘤の退縮過程をCE-USを含めた慎重な経過観察が必要と考える.