Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 消化器
腹部(その他①) 

(S561)

腹水の存在下における脾後方横隔膜エコーの歪みについて-数学的モデル解析-

Distorted image of diaphragm behind spleen under ascites : computer analysis

宇野 篤1, 石田 秀明2

Atsushi UNO1, Hideaki ISHIDA2

1秋田県成人病医療センター消化器科, 2秋田赤十字病院超音波センター

1Department of Gastroenterology, Akita Medical Center, 2Center of Dianostic Ultrasound, Akita Red Cross Hospital

キーワード :

【はじめに】
腹水の存在下に脾臓を観察する際,脾臓後方に位置する横隔膜像のひずみが出現しスキャン角度の変化に伴いその像も変化する現象をときに認める.肝右葉を右肋間走査で観察する際も同様の現象に遭遇する場合もあるが,ひずみの程度は脾臓後方おいてより顕著に認められる印象を日常持つことが多い.今回は本現象をアーチファクトの一種ととらえ,computer simulationを用いて解析検討したので報告する.
【基礎的検討(方法)】
(1)脾臓を左上腹部肋間斜走査で観察すると仮定した.便宜上超音波ビームは一点から扇状に放射されるものとした.(2)スキャン面における脾臓モデルの形状を半月型,三日月型,楕円型および脾門部のくびれを表現したくびれ型に大別した.さらに脾臓の描出面における角度を変化させ配置した.(3)プローブから腹水〜脾臓〜腹水〜横隔膜と近傍の超音波伝搬経路を計算しビームの軌跡を表示した.音速は脾臓:1540 m/s,腹水:1480 m/sとした.(4)超音波伝搬経路を元に,観察対象物が実際にはどのように装置に超音波画像として表示されるか計算した.(5)最後にビームの軌跡と装置に表示される対象物を重ねて表示し像を解釈・検討した.
【基礎的検討(結果)】
(1)横隔膜像のひずみは主として断裂ないし偏位であった.(2)ひずみは概ね脾臓の形状が,くびれ型>三日月型>半月型>楕円型の順に顕著であった.主に脾臓の上極および下極の後方の2ヶ所にひずみが観察されたが,くびれ型ではさらに脾門部の後方にも認められた.(4)脾臓が左右に伸びているより,前後方向に伸びている方が,ひずみは明瞭であった.(5)脾臓と横隔膜の距離が遠いすなわち腹水が多いほどひずみは顕著であった.
【まとめ・考察】
超音波は音速の異なる境界面に斜入射した場合Snellの法則に従い屈折する.境界面が平面の場合は理解しやすいが,境界面が本例のように多数の曲面から構成される形状の場合は複雑に屈折するため,コンピュータ解析が全体像の理解に役立つ.今回得たシミュレーション結果と日常受ける印象とはほぼ一致し,肝後方における横隔膜の断裂像が通常1ヶ所であるのに対して,脾臓後方ではより複雑に偏位し,複数の部位で断裂像が出現することが理解できた.このような規則性を理解することが,像の正しい解釈につながるものと思われた.