英文誌(2004-)
一般口演 消化器
腹部(その他①)
(S559)
M-modeによる腹部嚢胞性腫瘍内の対流現象に関する検討
Motion of internal echo in cystic lesion accentuated by acoustic radiation force impulse on M-mode
長沼 裕子1, 石田 秀明2, 長井 裕3, 大山 葉子4, 渡部 多佳子2, 船岡 正人1, 藤盛 修成1, 花岡 明彦5, 井鳥 杏菜6
Hiroko NAGANUMA1, Hideaki ISHIDA2, Hiroshi NAGAI3, Yoko OHYAMA4, Takako WATANABE2, Masato FUNAOKA1, Shusei FUJIMORI1, Akihiko HANAOKA5, Anna ITORI6
1市立横手病院消化器科, 2秋田赤十字病院超音波センター, 3NGI研究所, 4秋田厚生医療センター臨床検査科, 5日立アロカメディカル株式会社, 6東芝メディカルシステムズ株式会社
1Department of Gastroenterology, Yokote Municipal Hospital, 2Center of Diagnostic Ultrasound, Akita Red Cross Hospital, 3New Generation Imaging Laboratory, 4Department of Medical Laboratory, Akita Kosei Medical Center, 5Hitachi-aloka Medical Systems Co. Ltd., 6Toshiba Medical Systems Co. Ltd.
キーワード :
【はじめに】
M-modeは通常動きのある対象物を時系列で観察する目的で用いられる.しかし今回我々は,腹部嚢胞性腫瘍5例において,嚢胞性腫瘍内に浮遊する内部エコーがM-modeにより後方へ動くという現象を観察した.これらの症例に関し検討し,機序について考察し,若干の知見を得たので報告する.使用装置:日立アロカ社製Preirus, Ascendus,東芝社製Aplio XG.
【対象と方法】
対象は外来のUS検査でM-modeで内部エコーの後方流動を画像上で認めた5例(肝嚢胞1,肝膿瘍1,脾嚢胞1,腸間膜嚢胞1,卵巣嚢腫1).方法は,この現象が超音波の影響であることの確認で,①病変の大きさ,内部エコーの有無を検討後,M-modeで内部エコ−の動きを確認したのち,M-modeカーソル位置を動かして内部エコーの流動状態がそれに応じて変化するかどうか観察した.音響強度との関係を確認するために5例中2例では観察途中MIを下げてみて観察した.治療目的に嚢胞内溶液穿刺を行った1例では内容液をバルーンに入れてin vitroでも同様の現象を観察した.方法②この現象をさらに検討するために,嚢胞液ファントムとして片栗粉を水に溶かした溶液をバルーンに入れ水槽内で観察し,M-modeで同様の現象が再現されるかどうか試みた.
【結果】
①病変の大きさは30-140mm(平均85mm),全例内部に点状エコーが存在した.内部の点状エコーをM-modeで観察すると,M-modeのカーソルをあてた部位で内部エコーが後方へ流動する現象が5/5例にみられた.カーソルを移動するとその場所で内部エコーが後方へ流動するようになり,内部の点状エコーが対流するような現象も4/5例にみられた.MI値を下げて観察した2例ではMI値を下げると内部エコーの後方への流動は停止した.治療目的で穿刺した肝嚢胞1例では内容液をバルーンに入れ水槽内での観察をし,同様の現象が見られることを確認した.②片栗粉を水にとかしてバルーンに入れM-modeで観察すると内部の点状エコーがM-modeのカーソルの部位で後方に流動し始め,カーソルの位置を変えるとそれにつれて動き,対流するような現象を再現することに成功した.MI値を下げるとその流動は停止した.
【まとめと考察】
M-modeは通常観察対象物の動きを観察するツールであるが,今回,M-modeにより観察対象物が物理的に動くという現象を観察した.その現象の機序として超音波の照射によって物体を後方に押しやる力が生じる物理現象(acoustic radiation force impulse:音響放射力)が考えられる.通常B-modeにおいても音響放射力が生じているが,微弱であるために意識されることはないが,M-modeでは同じ走査線上に複数回超音波が照射されるために,力が強くなり,観察対象の点状エコーが動きだすということが考えられる.今回,臨床例においてこの現象を観察し,M-modeにおける音響放射力が機序として考えられ,in vitroでも再現でき,それを裏付ける結果を得た.臨床の場でもM-modeの検査では音響放射力の影響を考慮しなくてはならないと思われる.臨床的には,音響放射力と音響安全性の関連を明確にしていく研究の重要性を感じている.今後さらなる症例の蓄積,検討をしていく.