Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 消化器
下部消化管③ 

(S558)

虫垂炎の診断にて虫垂切除を行った虫垂粘液嚢胞腺癌の1例

A case of Mucinous Cystadenocarcinoma of the Appendix which performed appendicectomy by a diagnosis of appendicitis

西村 はるみ1, 3, 王子 史恵1, 芳澤 淳一2, 久保 直樹2, 川島 博子3

Harumi NISHIMURA1, 3, Fumie OJI1, Junichi YOSHIZAWA2, Naoki KUBO2, Hiroko KAWASHIMA3

1JA長野厚生連安曇総合病院診療放射線科, 2JA長野厚生連安曇総合病院外科, 3金沢大学大学院医薬保健学総合研究科保健学専攻医療科学領域量子医療技術学講座

1Department of Radiology, Azumi General Hospital, 2Department of Surgery, Azumi General Hospital, 3School of Health Sciences, College of Medical, Pharmaceutical and Health Sciences, Kanazawa University

キーワード :

【はじめに】
虫垂粘液嚢胞腺癌は虫垂炎との鑑別が難しく,術後に診断されることが多い.当院において虫垂炎の診断で虫垂切除を施行され,術後に虫垂粘液嚢胞腺癌と診断された1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
【症例】
90歳,女性
【主訴】
下腹部痛
【既往歴】
89歳時に急性虫垂炎(膿瘍形成を伴う)にて保存的治療
【現病歴】
下腹部痛が出現し当院を受診した.
【現症】
左右の下腹部に軽度の圧痛を認めた.
【血液検査】
白血球数4300/μl,CRP 0.09mg/dlと炎症反応はなく,腫瘍マーカーもCEA 4.2ng/mlと上昇は認めなかった.
【腹部超音波検査(以下US)】
虫垂は腫大を認めたが層構造は温存されていた.腫大した虫垂周囲には嚢胞を疑う内部無エコーの腫瘤が数個認められたが盲腸との連続性は認められなかった.またリンパ節腫大と思われる楕円形の腫瘤も認めたが,炎症の波及を示唆するような虫垂周囲の高エコー域は認めず,またカラードプラにて腫大した虫垂に血流亢進所見を認めなかった.以上より,虫垂腫大と嚢胞形成を認めるが炎症の程度は軽度と考えた.
【腹部CT検査(以下CT)】
虫垂が腫大し,虫垂周囲に液体貯留腔が散見されているが,腹膜炎や腹腔内膿瘍,腹水を疑う所見は認めなかった.
【手術所見】
虫垂の根部側は正常所見を呈し,先端側に嚢胞を形成し腫大していた.
【病理組織学的所見】
虫垂の内腔には液体の貯留が認められ,また虫垂壁の固有筋層や漿膜下組織には粘液湖の形成が見られ,粘液湖内には杯細胞に分化した腫瘍細胞よりなる小集塊が浮遊しており,粘液癌の所見であった.
【考察】
虫垂粘液嚢胞腺癌は,虫垂内腔に粘液を貯留して嚢胞を形成する比較的稀な疾患である.特異的所見に乏しく術前に虫垂炎と虫垂粘液嚢胞腺癌を鑑別するのは困難なことが多い.本症例を振り返ると,USとCTにおいて虫垂の腫大と虫垂周囲の嚢胞は認められたが炎症所見は認められず,典型的な虫垂炎とは異なる所見を呈していた.
また本症例は超高齢者であった.高齢者における虫垂炎症例では,生体反応の低下により腹痛の程度が軽微であるために受診が遅れがちであり,初診時にすでに重篤な症例が多いといった傾向がある.高齢者において虫垂炎が疑われる場合でも嚢胞を疑う内部無エコーの腫瘤が認められたときは,嚢胞腺癌も考慮すべきものと考える.