英文誌(2004-)
一般口演 循環器
症例報告・血栓塞栓症/その他
(S544)
適切な抗凝固療法中に静脈血栓症が悪化した2症例
2 cases of worsening venous thromboembolism in spite of appropriate anticoaguration
野中 顕子
Akiko NONAKA
兵庫県立がんセンター循環器内科
Department of Cardiology, Hyogo Cancer Center
キーワード :
【症例1】
43歳女性 卵巣がん(明細胞がん)
当院婦人科に初診時,自覚症状なしであったがD-dimer 170μg/mlと著明高値,造影CTでmassiveな肺血栓塞栓症が認められた.心エコーで右室拡大と圧負荷(TRPG=51mmHg)あり,下肢静脈エコーで下肢深部静脈血栓多量に認められたが末梢型であったためIVCフィルター留置はせずにヘパリン持続点滴開始.開始後D-dimerは20に低下,ワーファリナイゼーション開始.PT-INRは3.05とコントロール良好であったにもかかわらず,D-dimerは40に上昇,エコーで下肢静脈血栓量の増加も認め,IVCフィルター留置した.ヘパリン以外の抗凝固療法に耐性を示す可能性が高く,ヘパリン持続再開,それと同時に化学療法を開始.ヘパリン維持量決定してから皮下注に移行し,自己皮下注で外来通院中もヘパリンを継続した.化学療法が奏功し,手術され,現在は卵巣がんもVTEも再発なく経過良好である.術前にVTEは全て消失していた.
【症例2】
71歳男性 肺線がん脊椎転移下半身まひ
脊椎転移に対する緊急放射線治療のため入院.入院時D-dimer 20,小さな肺血栓塞栓症があり,下肢静脈エコーで末梢型の小さなDVTを認めたため,ワーファリナイゼーション開始.PT-INR2.0とコントロール良好であったが,一旦4.7に低下したD-dimerが24と再上昇,CTでPTEは消失するも下肢DVT量は増加,IVCフィルター留置のあと,放射線治療と化学療法を開始.ヘパリン持続も開始.治療が奏功し,VTEも改善,肺がんもコントロール良好となっており,歩行可能にまでなった.
【まとめ】
悪性腫瘍に静脈血栓症が合併することは広く知られている.Trousseau症候群という,通常の抗凝固療法が奏功しない場合もあり,特にがん病状の悪化している時期やperformance status低下している時期には,血栓悪化リスクが高くなるため,血栓症増悪傾向についてエコーなどで画像評価を適時行い,血栓症悪化が認められたら即ヘパリンでの抗凝固慮法に変更するなど,即判断が必要である.