英文誌(2004-)
一般口演 循環器
症例報告・血栓塞栓症/その他
(S543)
脳塞栓症および肺塞栓症を同時期に認めた卵円孔開存の1例
Patent foramen ovale caused by paradoxical cerebral embolism secondary to pulmonary embolism
渡部 徹也, 篠田 幸紀, 池岡 邦泰, 乾 礼興, 星田 四朗
Tetsuya WATANABE, Yukinori SHINODA, Kuniyasu IKEOKA, Hirooki INUI, Shiro HOSHIDA
八尾市立病院循環器内科
Cardiovascular Medicine, Yao Municipal Hospital
キーワード :
症例は50代女性.平成26年某月,起床後に左半身の脱力を自覚し当院救急外来を受診した.入院時,意識は清明であったが左片麻痺および左半側空間失認を認めた.MRI検査にて右中大脳動脈閉塞を認め右前頭葉・側頭葉に脳梗塞を認めた.入院後血行動態は安定していたが,発症時期は不明であるため血栓溶解療法は行われなかった.第2病日の頭部MRIでは右中大脳動脈の再開通を認め一部出血性梗塞を来していたが前日とは著変を認めなかった.第2病日夜間に突然の意識消失発作およびSaO2 75%と著明な低下を認めた.心エコー図では左室拡張末期径42mmで左室の拡大なく左室壁運動も正常であったが,右室の拡大を認めた.造影CTにて左右肺動脈に複数の造影欠損領域を認め肺塞栓症と診断した.その後抗凝固療法を行い徐々に全身状態は改善した.入院中のモニター心電図上は心房細動を認めなかった.下肢静脈エコーにて左右ヒラメ筋静脈・左腓骨静脈に血栓を認めた.頸動脈エコーにて有意狭窄を認めず,高血圧,脂質異常症,糖尿病,心房細動などのリスク因子も認めないため,脳梗塞の原因として奇異性脳塞栓を疑い第9病日に経食道心エコー図を施行した.左室および左心耳の血栓は認めず明らかな心房中隔欠損も認めなかった.カラードプラ法にても心内シャントは認めなかったが,経静脈コントラストエコー法にてバルサルバ負荷時に右左シャントを確認した.動脈酸素飽和度の著明な低下,意識消失,右室負荷など血行動態の破綻する肺塞栓症を来していたため,ワルファリンによる抗凝固療法とともに第11病日に下大静脈フィルターを挿入した.卵円孔開存に関しては閉鎖術を行わなかった.その後,リハビリを行い退院された.慢性期の腹部エコーにて下大静脈フィルター内に血栓を疑うエコー像を認めたが,有症候性の肺塞栓,脳梗塞は認めていない.現在独歩にて通院加療中である.奇異性脳塞栓と肺塞栓を認めたという報告は散見されるが多くは重症化しておらず無症候性もしくは軽症例である.今回,奇異性脳塞栓症と肺塞栓症を同時期に発症し重症化したと考えられる稀な1例を経験したので報告する.