Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

一般口演 循環器
症例報告・冠動脈 

(S542)

治療方針の決定に冠動脈エコー法が有用であった急性冠症候群の二例

Clinical significance of coronary flow velocity measurement using transthoracic doppler echocardiography for acute coronary syndrome a two case report

澤田 直子1, 伊藤 敦彦1, 原田 修2

Naoko SAWADA1, Nobuhiko ITOU1, Osamu HARADA2

1関東中央病院循環器内科, 2関東中央病院検査科

1Department of Cardiology, Kanto Central Hospital, 2Clinical Laboratory Department, Kanto Central Hospital

キーワード :

【はじめに】
心エコー検査による虚血性心疾患の診断指標は局所壁運動異常の評価が主流であり,冠動脈を直接評価する方法はいまだ浸透していない.しかし当院では,冠動脈描出の工夫を重ねることで,左主幹部から左前下行枝を中心にドプラ法による血流評価を行い,虚血性心疾患の初期診断や病変の予測に役立っている.
今回,冠動脈エコー法による冠動脈血流評価が治療方針の決定に有用であった急性冠症候群の二症例を報告する.
【症例提示】
1.症例は53歳男性.来院1週間前から労作時に30秒間程度持続する胸痛を自覚していた.来院前日には胸痛が10分間持続したため,翌日近医を受診.心電図で胸部誘導の広範囲に陰性T波を認めた.心エコーで明らかな局所壁運動異常を認めず,冠動脈は左主幹部から左前下行枝遠位部まで描出良好であり,Aliasingを伴う加速血流は認めなかった.症状は労作時中心であり,攣縮が多いとされている夜間や朝方ではなく日中に症状が多かったが,エコー上高度な冠動脈狭窄は疑いにくかったため,冠攣縮性狭心症の可能性も踏まえてアセチルコリン負荷試験を行う方針とした.硝酸薬は投与せずに造影を行い器質的狭窄のないことを確認した後に,アセチルコリンを冠注したところ,左前下行枝にびまん性に90%の冠攣縮が誘発された.症状も普段自覚している症状と同一であり,冠攣縮性狭心症を診断し得た.
2.症例は73歳男性.2013年12月より起床後や朝方に胸痛を自覚するようになった.安静にすると10分間程度で症状は消失し,労作時に胸部症状は認めなかった.他院で逆流性食道炎や冠攣縮性狭心症が疑われ,プロトンポンプインヒビターやカルシウム拮抗薬等が処方されたがいずれも有効ではなく,硝酸薬を舌下すると症状が軽減した.徐々に症状の頻度が増してきたので紹介受診.心電図はV1-3で冠性T波を形成しており,受診当日に施行した心エコーで局所壁運動異常は認めないものの,左前下行枝の近位部にAliasingの出現を認め,速度は約2.0m/sの加速血流であり高度狭窄が疑われた.当初は外来フォローの予定としていたが即日入院のうえ冠動脈CTを行うと左主幹部から左前下行枝近位部に高度狭窄を認めたため,準緊急で冠動脈造影を施行した.左主幹部から左前下行枝近位部に99%狭窄を認め,薬剤溶出性ステントを留置して血行再建を行った.冠攣縮性狭心症を疑わせる症状であったが,冠動脈エコーが有用であり不安定狭心症を診断し得た.
【考察】
1.Braunwald IBの症状があり心電図変化も認めていることから,通常であれば器質的狭窄があることが予想される症例である.冠動脈エコーで左主幹部から左前下行枝の全域を描出でき,その範囲で高度狭窄を疑わせる所見がなかったため,冠動脈造影時に硝酸薬を初期投与せずに冠攣縮誘発試験を実施し,診断につながった.
2.安静時中心の胸痛であり,心電図変化は認めるが局所壁運動異常は呈しておらず,当初は緊急度が低いと考え外来フォローの方針としていた.しかし冠動脈エコーで左前下行枝近位部に高度狭窄を疑う所見を認めたため,準緊急で冠動脈造影を施行した.予想された部位に高度狭窄を認め,早期の血行再建につながった.
【結語】
通常の心エコー検査に引き続いて冠動脈エコー法を追加する事により,冠動脈器質的狭窄の推定がある程度可能であり,急性冠症候群に対する迅速な診断,治療方針の決定に結びついた.