渡邉 絵里¹, 石塚 尚子², 藤田 悦子², 高良 綾子², 金田 早紀³, 伊藤 美貴³, 佐野 裕美³, 永山 加奈恵³, 原 隆司³, 川名 正敏¹

Eri WATANABE¹, Naoko ISHIZUKA², Etsuko FUJITA², Ayako TAKARA², Saki KANEDA³, Miki ITO³, Hiromi SANO³, Kanae NAGAYAMA³, Takashi HARA³, Masatoshi KAWANA¹

¹東京女子医科大学附属青山病院循環器内科, ²東京女子医科大学附属成人医学センター循環器内科, ³東京女子医科大学附属成人医学センター臨床検査室

¹Department of Cardiology, Aoyama Hospital, Tokyo Women’s Medical University, ²Department of Cardiology, Institute of Geriatrics, Tokyo Women’s Medical University, ³Clinical Laboratory, Institute of Geriatrics, Tokyo Women’s Medical University

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【背景】
近年，心臓MRIでmyocardial cryptの症例報告が散見され，また肥大型心筋症（HCM）のgene carrierに多いという報告や，HCM以外の疾患や，健常人にもmyocardial cryptがみられるという報告がある．Myocardial cryptは，先天性の左室の壁異常の一つであり，まだ確立された定義はないが，“拡張期にみられる左室内腔と連続する狭小化した深い陥入部で，心筋壁厚の50％以上の深さがあり，収縮期に腔が狭小化または消失するもの”とされている．今回我々は，心エコー図検査で偶然発見され，心臓MRIとCTで診断しえたmyocardial cryptの一例を経験したので報告する．
【症例】
症例は78才女性．21年前から糖尿病で加療中．とくに胸痛などの自覚症状なく，心電図異常も指摘されたことはないが，息子が心筋梗塞で入院加療を受けたことより，本人の希望で心エコー図検査を施行した．左室の大きさは正常で，左室肥大はなく，壁運動も異常がなく，収縮能も正常であった．しかし，二腔像および短軸像で，左室心基部の下壁に，左室に連続して切れ込み様に描出され，カラーシグナルが流入する8x10mmの腔を認めた．同部位の壁運動は正常であった．形態と部位より，myocardial cryptが疑れたため，さらに心臓CT，心臓MRI検査を行った．心臓CTでは冠動脈には有意な狭窄はなく，左室の心基部下壁に憩室様の腔を認めた．心臓MRIでは左室の拡大なく，左室駆出率69.2％，左室心基部の下壁に左室に連続する腔を認めた．同部位の壁運動は正常で，遅延造影で明らかな遅延造影像を認めなかった．本例は小さな左室憩室との鑑別診断に苦慮したが，正常な壁運動が保たれ，左室内腔と連続し，左室心筋壁内に限局して心外膜の外に及ばない腔でありmyocardial cryptと診断した．
【考察と結語】
従来myocardial cryptは心臓MRIや心臓CTで偶発的に見つかることが多く，心エコー図検査で最初に発見されることはまれであった．その原因として，myocardial cryptの存在があまり知られておらず，検査に携わる技師や医師に十分認識されていないということがあげられる．検査にあたっては，cryptの好発部位である，心基部下壁，下壁中隔に留意していく必要があると考える．