町野 智子, 瀬尾 由広, 石津 智子, 川松 直人, 佐藤 希美, 渥美 安紀子, 山本 昌良, 針村 佳江, 青沼 和隆

Tomoko MACHINO, Yoshihiro SEO, Tomoko ISHIZU, Naoto KAWAMATSU, Kimi SATO, Akiko ATSUMI, Masayoshi YAMAMOTO, Yoshie HARIMURA, Kazutaka AONUMA

筑波大学医療系循環器内科

Cardiovascular Division, Faculty of Medicine, University of Tsukuba

キーワード :

【背景と目的】
左室収縮期における左室心筋や乳頭筋の長軸方向への短縮は僧帽弁輪を介して左房壁の伸展を起こし，肺静脈から左房への血液流入を促進する．したがって僧帽弁輪の柔軟性低下や動的変化の減少は左房リザーバー機能に影響を及ぼす可能性があるが，その詳細は明らかでない．本研究では同課題について4次元経食道心エコー図法を用いて検討を行った．
【方法】
左室EF50％以上を有し中等度以上の僧帽弁弁膜症のない64症例において経胸壁心エコー図検査及び3次元経食道心エコー図検査を施行し，オフラインソフト（TomTec 4D MV-Assessment2.0）で収縮期における僧帽弁形態の変化を解析した．また，左房リザーバー機能の指標として2Dスペックルトラッキング法による収縮期左房ピークストレイン値及び肺静脈血流波形（S及びD波高）を記録し，僧帽弁指標との関連について検討した．
【結果】
収縮期を通じた僧帽弁輪垂直方向移動距離と収縮期左房ストレイン値（r=0.30，p=0.02），肺静脈S波高（r=0.32，p=0.008），S/D比（r=0.34，p=0.004）はそれぞれ有意な相関を有した．また収縮期における僧帽弁2D弁輪面積の変化分画と収縮期左房ストレイン値（r=0.32，p=0.008），肺静脈S波高（r=0.52，p＜0.001），S/D比（r=0.51，p＜0.001）もそれぞれ有意な相関を有した．しかし左室EFや収縮期左室長軸方向ストレイン値はこれら左房リザーバー機能指標と有意な相関を有さなかった．S/D＜1の症例（n=28）を左房リザーバー機能低下とし，これを従属変数としたロジスティック回帰分析を行うと，収縮期における僧帽弁2D弁輪面積変化分画の低下は，左房リザーバー機能低下の独立規定因子であった（OR5.6，95％CI 2.4-13.5，p＜0.001）が，左室EFや収縮期左室長軸方向ストレイン値は左房リザーバー機能低下を規定しなかった．
【結語】
EFが保持されている症例においては，収縮期における僧帽弁輪移動距離や弁輪面積の変化分画で示されるような僧帽弁輪の柔軟性は，左室収縮能とは独立して左房リザーバー機能を規定している可能性がある．