村井 大輔¹, 山田 聡¹, 林 大知¹, 岡田 一範², 西野 久雄³, 中鉢 雅大³, 横山 しのぶ³, 岩野 弘幸¹, 三神 大世², 筒井 裕之¹

Daisuke MURAI¹, Satoshi YAMADA¹, Taichi HAYASHI¹, Kazunori OKADA², Hisao NISHINO³, Masahiro NAKABACHI³, Shinobu YOKOYAMA³, Hiroyuki IWANO¹, Taisei MIKAMI², Hiroyuki TSUTSUI¹

¹北海道大学大学院循環病態内科学, ²北海道大学大学院保健科学研究院, ³北海道大学病院検査・輸血部

¹Department of Cardiovascular Medicine, Hokkaido University Graduate School of Medicine, ²Graduate School of Health Sciences, Hokkaido University, ³Division of Laboratory and Transfusion Medicine, Hokkaido University Hospital

キーワード :

【背景】
臨床研究にスペックルトラッキングエコー法の心筋指標が盛んに用いられるようになったが，負荷条件の変化に対する心筋ストレイン（St）やストレインレート（SR）の変動の影響について考慮されることはほとんどない．また，一般に，負荷依存性はStよりSRの方が小さいと考えられているが，根拠に欠ける．
【目的】
健常者において，後負荷の変化に対するStとSRの変動の程度を明らかにし，StとSRの間で後負荷依存性を比較する．
【方法】
健常ボランティア41例（29±5歳；女性11例，男性30例）で，最大握力の50％のハンドグリップ負荷を4分間行い，負荷前と負荷開始2分後に心エコー図を記録した．血圧と収縮末期の左室径，壁厚から，収縮末期の長軸方向壁応力（MWS）と円周方向壁応力（CWS）を算出した．スペックルトラッキングエコー法を用い左室内膜側でトラッキングを行い，心尖部3断面で長軸方向のグローバルSt（LS）と収縮期ピークSR（LSRs）を，左室短軸3断面で円周方向のグローバルSt（CS）と収縮期ピークSR（CSRs）を計測し，3断面での結果を平均した．
【結果】
ハンドグリップ負荷により，収縮期血圧は98±11 mmHgから116±15 mmHgへ18.9％上昇した（p＜0.01）．その結果，MWSは660±130 dyn・mm^-2から962±189 dyn・mm^-2へ増大し（p＜0.01），この47％の増大に対し，LSは17.1±2.4％から15.4±2.7％へ変化率で8.4％低下し（p＜0.01），LSRsは0.80±0.09 s^-1から0.75±0.08 s^-1へ6.4％低下した（p＜0.01）．CWSは885±123 dyn・mm^-2から1150±181 dyn・mm^-2へ31％増大し（p＜0.01），これに対し，CSは25.0±1.4％から22.3±1.9％へ変化率で10.7％低下し（p＜0.01），CSRsは1.25±0.12 s^-1から1.10±0.11 s^-1へ12.1％低下した（p＜0.01）．壁応力（x）とStあるいはSRの関係について負荷前後の全ポイントで線形回帰分析を行い，以下の回帰式を得た：LS=−0.0040x+19.7，r=−0.51，p＜0.01；LSRs=−0.00011x+0.86，r=−0.26，p=0.016；CS=−0.0075x+31.2，r=−0.71，p＜0.01；CSRs=−0.00031x+1.49，r=−0.45，p＜0.01．単位の異なるStとSRの間で壁応力に対する変化の程度を比較するために標準化回帰係数を比較したところ，LSとLSRsの間に有意差はなく（−0.52 vs−0.27，p=0.26），CSとCSRsの間にも有意差を認めなかった（−0.71 vs−0.48，p=0.57）．
【結論】
ハンドグリップ負荷による壁応力の増加率に比しStとSRの低下率は小さいが，無視できるほど小さな変化ではなかった．StとSRを比較して，後負荷依存性に差異を認めなかった．