Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

奨励賞演題
産婦人科 

(S412)

分娩前後での子宮のflexionの変化−分娩様式および帝王切開創楔状欠損との関連−

Change in flexion of uterus womb before and after a delivery

櫻井 理奈, 梁 栄治, 瀬戸 理玄, 岸本 倫太郎, 鎌田 英男, 手島 映子, 松本 泰弘, 木戸 浩一郎, 綾部 琢哉

Rina SAKURAI, Eiji RYO, Michiharu SETO, Rintaro KISHIIMOTO, Hideo KAMATA, Eiko TESHIMA, Yasuhiro MATSUMOTO, Koichiro KIDO, Takuya AYABE

帝京大学医学部産婦人科学講座

Department of Obstetrics and Gynecology, Teikyo University

キーワード :

【目的】
帝王切開率の増加と経腟超音波断層法の普及に伴い,子宮筋層切開創部の超音波像についての報告が増えている.子宮創部の欠損像は不十分な創傷治癒によると考えられ,筋層一層縫合,複数回の帝王切開以外に子宮の後屈が誘因の一つであるという報告がある.この報告によると子宮が後屈している場合,前屈に比べ子宮創部の欠損像は2倍程度といわれている.しかし,我々は子宮の後屈は誘因ではなく,結果ではないかとの仮説をたてた.そもそも,分娩前後に子宮のflexionがどのように変化するかの報告はない.分娩前後の子宮のflexionとその変化について,経腟分娩と帝王切開という分娩様式の違いで比較し,さらに帝王切開例では切開創部の欠損との関連について検討した.
【方法】
当院で2010年1月1日〜12月31日までに出産となった妊婦のうち,妊娠初期と産褥1か月の子宮の経腟超音波所見が残っていた246人を対象(経腟分娩150例,帝王切開例96例)として後方視的に検討した.妊娠初期と産褥1か月の超音波所見で子宮のflexionを判定.経腟分娩と帝王切開症例とで妊娠初期に子宮が前屈で分娩後1か月検診でも前屈であった例をそれぞれV(AA)群,C(AA)群,前屈から後屈に変化した群をV(AP)群,C(AP)群,同様にV(PA)群,C(PA)群,V(PP)群,C(PP)群とした.AAおよびPPをflexion変化なし群,APおよびPAを変化あり群とした.また帝王切開例については子宮筋層欠損の有無を判定し,以下の項目について検討した.
1)経腟分娩例と帝王切開例でflexionの変化の有無の頻度を比較した.
2)経腟分娩,初回帝王切開,反復帝王切開例で一ヶ月検診におけるflexionを比較した.
3)子宮筋層欠損の頻度をflexionの変化あり群となし群とで比較した.
【結果】
1)V(AP)16例,V(PA)9例となり経腟分娩例でflexinが変化したものは25例(17%),V(AA)98例,V(PP)27例でFlexionが変化しなかった例は125例(83%)であった.これに対し,帝王切開では変化したものが36例(38%,AP27,PA9例),変化しなかったのもが60例(62%,AA49,PP11例)となり,帝王切開でflexionが変化する例が多かった(P<0.001).
2)1ヶ月検診において後屈であった例は経腟分娩43例(29%).初回帝王切開55例中20例(36%).反復帝王切開41例中21例(51%)と増加傾向を示し,反復帝王切開では経腟分娩に比べ有意に多かった(P =0.0067).
3)子宮筋層の欠損があったものは41例であった.Flexion変化あり群では32例(88%)に欠損を認め,変化を認めない群(9例15%)に比べ有意に多かった(P<0.001).
【考察】
帝王切開例では経腟分娩例に比較して分娩前後に子宮のflexionが変化する例が多いことが明らかになった.また帝王切開の回数が増えるにしたがって産褥での子宮後屈例が増加することがわかった.これは,もともと多くの女性で子宮は前屈しているのに対し帝王切開によって子宮のflexionが変化することを意味していると思われる.帝王切開と経腟分娩で異なる因子としては陣痛の程度,子宮口の開大程度,児頭の下降の程度,筋層への切開の有無,子宮復古の程度などが考えられる.さらに今回の検討ではflexionが変化する例で不十分な創傷治癒を示していると考えられている子宮筋層欠損例が多いことが明らかとなった.以上のことから帝王切開における子宮のflexionの変化は子宮の筋層への切開とその治癒機転とかかわりをもつ可能性が示された.また子宮の後屈は子宮筋層欠損の誘因とは限らず結果である可能性が示された.