Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

奨励賞演題
循環器 

(S407)

慢性血栓塞栓性肺高血圧に対する肺動脈バルーン形成術後の心エコー図学的右心機能評価

Significance of Echocardiography Assessment for Right Ventricular Function after BPA in Patients with CTEPH

繼 敏光1, 村田 光繁2, 川上 崇史1, 福田 恵一1

Toshimitsu TSUGU1, Mitsushige MURATA2, Takshi KAWAKAMI1, Keiichi FUKUDA1

1慶應義塾大学医学部循環器内科, 2慶應義塾大学医学部臨床検査医学

1Department of Cardiology, Keio University School of Medicine, 2Laboratory Medicine, Keio University School of Medicine

キーワード :

【背景】
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は,器質化血栓による肺動脈の狭窄が原因となり肺高血圧をきたす疾患である.本症の治療法として,肺動脈血栓内膜摘除術があるが,病変が末梢にある場合や全身状態が不良な患者は適応とならない.肺動脈バルーン形成術(BPA)が1988年に初めて報告されたが,当初は合併症が多く普及しなかった.しかし,近年BPAはデバイスの進歩により改善がなされ,低リスクで良好な成績が報告されるようになった.治療効果判定は,右心カテーテル検査(RHC)が一般的であるが,侵襲的であるため,反復検査が可能な非侵襲的評価法が求められている.心エコー図検査は右室形態が複雑であるため,右室機能の評価は困難とされてきた.しかし,近年3次元心エコー図検査(3D-TTE: three-dimensional transthoracic echocardiography)やスペックルトラッキング法(STE: speckle tracking echocardiography)などの新しい測定方法が登場したことにより詳細な評価が可能になった.
【目的】
心エコー図の新たな測定項目も含めて,RHCと相関する指標や,新たなBPA治療効果の判定項目を見いだすことである.また,BPA6ヶ月後における運動耐用能(6分間歩行距離)の予後予測因子を同定することである.
【方法】
2012年11月から2014年5月までの期間に当院でCTEPHと診断され,BPAを施行した22症例を対象とした.Vivid-E9(GE Healthcare社製)で心エコー図検査を施行し,EchoPAC解析装置で三尖弁輪部収縮期移動距離(TAPSE),右室弁輪部長軸方向移動速度(RV-S’),RIMP: RV index of myocardial performance,3D右室容積,3D右室駆出率(3D-RVEF),右室長軸方向ストレインをBPA前後と6ヶ月後に計測した.
【結果】
全症例においてBPA施行後,RHCで計測した平均肺動脈圧(mPAP),肺血管抵抗(PVR),心係数(CI)や臨床検査所見(WHO機能分類,脳性ナトリウム利尿ペプチド)は有意に改善していた.軽度肺高血圧患者(mPAP 26-30 mmHg)においても,これらの項目は有意に改善していた.
心エコー図検査では,これまでの一般的な右室機能評価項目であるTAPSEやRV-S’はBPA前後において有意差がなかった.新たな指標である3D-TTEで計測した3D右室拡張末期容量係数,3D右室収縮末期容量係数,3D-RVEF,右室自由壁長軸方向のストレイン値は有意に改善していた.
心エコー図とRHCの相関関係を検討した.CIの変化率と3D-右室1回拍出係数(3D-RVSVI)の変化率は逆相関しており,さらにmPAPの変化率と3D-RVEFの変化率,PVRの変化率と3D-RVSVIの変化率はそれぞれ相関していた.RHCと相関関係があった項目は3D-TTEで計測した項目だけであり,2Dエコー図で計測した項目は全て相関関係を認めなかった.
次に,右室dyssynchnohyを右室6分画のQRS開始から最大陰性ストレイン値までの時間(SD T-P)の標準偏差で評価した.SD T-Pは全例でBPA後に改善していた(91.8±38.2 msec: 47.4±24.1 msec, p =<0.001).さらに軽度肺高血圧症患者(mPAP: 25-30 mmHg)6名中4名で著明なRV dyssynchnohyを認めていたが,BPA後に有意に改善し(82.8±24.4 msec: 36.3±16.4 msec, p = 0.008),3D-RVEFも増加した(39.9±7.2%:48.7±5.7%,p = 0.01).
BPA6ヶ月後の6分間歩行距離改善の有無についてROC解析を行った.SD T-Pのカットオフ値を113.6 msecにするとAUCは0.85,感度91.7%,特異度69.4%であった.一般的な右心機能評価項目や3D-TTE,RHC,心臓MRIなどと比較しても,SD T-Pは最も強力な予後予測因子であった.
【結語】
心エコー図による3D-TTEやSTEなどの右室機能評価法は,CTEPH患者のBPA治療に対する新たな治療効果判定法として有用である.