Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 血管
ワークショップ 血管1 周術期における血管エコーの役割を検証する

(S386)

周術期における血管エコーの役割を検証する:バスキュラーアクセス

Role of perioperative duplex ultrasonography for the surgical placement and maintenance of hemodialysis vascular access

中村 隆

Takashi NAKAMURA

大阪労災病院末梢血管外科

Division of Vascular Surgery, Osaka Rosai Hospital

キーワード :

バスキュラーアクセス(VA)は血液透析患者にとってのライフラインであり,その作製および管理は重要な課題である.VAには内シャント法(A-V Fistula(AVF),人工血管(AVG))あるいは動脈表在化,カテーテル留置法などがあるが①十分な血流量が得られる②穿刺が容易である③寿命が長い④合併症が少ないといった点からAVFが最も優れたVAであることに異論はない.しかしながらAVFには早期閉塞・狭窄・発達不良・穿刺困難といった問題も存在する.近年,糖尿病患者数,長期生存例の増加などによりVA作成機会が増加しているが,高齢者,頻回のVA手術歴,高度動脈硬化病変の合併といったVA作成困難例も増加している.VA作成術前評価における理学的所見の重要性は言うまでもないが,近年,血管超音波検査の有用性が報告されている.本稿ワークショップではVA作成術前・術後(維持管理)検査における超音波検査の有用性と問題点ついて考えてみたい.
VA超音波検査に先立って,問診・視診・触診により上肢動静脈の観察を行なう.上肢の左右差(血圧差20mmHgで有意差ありとする),麻痺の有無を確認する.初回手術以外の場合には,これまでのVAの状況を確認する.静脈系は上腕を軽く駆血し,血管径,深さ,VA作成・穿刺可能部位を確認する.橈側皮静脈のみならず,尺側皮静脈の状態も必ず確認する.中心静脈内カテーテル留置歴,ペースメーカーの存在,乳癌手術既往などは問診・視診で確認しておく.前胸部に側副血行路がみられる場合には中心静脈に問題があることが多く,VA作成後に上肢腫脹をきたすことがあるので注意が必要である.動脈系は血圧の左右差有無,上腕・橈骨・尺骨動脈の拍動からおおよその血流状態を把握しておく.糖尿病合併例では動脈石灰化がみられる場合があるので注意する.手関節では拍動を触知しても,前腕では拍動が消失していることがある.四肢腫脹,肥満例などを除けば理学的所見でかなりの情報が得られる.また,予想される術式についての理解が,適切な術前超音波検査に求められる.
超音波検査施行にあたり,表在静脈が収縮しないように室温を適切に保つ必要がある.患者の体位は座位または仰臥位とし前腕の皮静脈から観察する.上腕部を駆血し,7.5-15Mhzのリニアプローブを用いて,橈側,尺側皮静脈の内腔径,狭窄部位の有無を観察する.開存性はプローブで静脈を軽く圧迫することで確認可能である.表在静脈が狭小化している場合には,深部静脈が代償性に拡大していることが多い.駆血を解除し上腕の皮静脈の内径,開存性および前腕からの連続性を確認する.上肢を外転,挙上させて腋窩静脈を,鎖骨上あるいは鎖骨下より鎖骨下静脈を観察する.鎖骨下静脈の開存確認にはバルサルバ法を用いる.静脈の連続性が確認されAVF作成可能と判断されたら,動脈系の評価を行う.上腕,橈骨,尺側動脈の内径,波形,収縮期最大流速,石灰化の程度を評価する.手術が予定されている場合には,吻合予定部動静脈をマーキングすることにより適切な皮切,確実な吻合が可能になり手術成功率が向上する.表在血管の位置は体位により変化するのでの,マーキングは手術時と同じ体位で行うことが望ましい.VA作成困難症例では,術者が超音波検査に立ち会うことで,より綿密な手術計画を立てることが可能になる.また,超音波検査技師もできれば手術見学を行うべきである.術者とのコミュニケーションや超音波画像と実際の血管の比較や手術内容の確認は診断技術の向上につながる.