Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 泌尿器
パネルディスカッション 泌尿器 女性骨盤底機能の超音波診断

(S360)

経直腸超音波検査を用いた女性骨盤臓器疾患へのアプローチ

Impact of Transrectal Ultrasonography on female pelvic organs

皆川 倫範

Tomonori MINAGAWA

信州大学医学部泌尿器科学教室

Department of Urology, Shinshu University

キーワード :

女性骨盤臓器に対する超音波のアプローチは,通常は経腹あるいは経膣プローブを用いて行われる.反対に,経直腸超音波プローブを用いてアプローチすることは少ない.その理由として,経直腸的に膣を介して膀胱・尿道を観察する場合,プローブから対象臓器までの距離が空いてしまう点や,直腸に入れたプローブをあおるような走査で観察することは侵襲的である点が挙げられる.また,膣という管腔臓器を観察することは超音波検査の特性上難しいと考えられるからかもしれない.実際に,経直腸超音波で女性骨盤臓器の観察をした報告はほとんど認めない.しかし,いくつかのの工夫によりそのような問題点を解消することができる.具体的な工夫として挙げられるのは,膣内をゼリーで満たすことと,ストレート型リニアプローブを用いることの2点である.ネラトンカテーテルを用いて膣内に超音波検査用ゼリーを10から20mlを注入すると,膣前壁・後壁など膣の詳細な観察が容易になるし,膀胱と膣のコントラストも明瞭になる.また,膀胱尿道がプローブで支持されないので,より自然な形で観察することが可能になる.さらにストレート型リニアプローブを用いると,ねじるような走査と小さな前後の走査だけで膀胱頚部・後壁,尿道,膣,子宮頚部を観察することが可能である.扇状走査に比べて単純な走査で,難しい技術や熟練は必要としない.これらの工夫により,経直腸超音波プローブならではの利点を発揮することができる.ゼリーとのコントラストにより膣壁の観察が鮮明になり,経腟プローブでは得難い膣壁の弛みや可動性を評価することができる.また,腹圧性尿失禁や骨盤臓器脱で問題となる尿道・膀胱の過可動性の評価は,経腟・経腹では不可能であるが,経直腸超音波は詳細にかつ動的に観察することができる.我々は更なる工夫として,回転自立が可能なX線透視台で骨盤臓器脱の観察を行っている.仰臥位,経直腸超音波プローブを挿入した状態で,患者を他動的に立位へと体位変換が可能となる.そうすることによって,仰臥位で自然な位置にある骨盤臓器が,立位になるにつれて下垂していく様子を観察することが可能となる.超音波検査機に内蔵されたハードディスクに動画として保存すれば,検査後に所見を分析したり,評価したいパラメーターを測定したりすることも可能である.また,膣壁と膀胱壁がスライドして雪崩のようにずれ落ちる様子を観察することができ,病態理解の一助となる.意外なことに,プローブで支持されている直腸と膣後壁も,下垂する様子が観察できる.おそらく,こういった体位変換時の骨盤臓器脱出の観察は検査台が固定されたCTやMRIでは不可能で,本法のみと思われる.さらに,骨盤臓器脱にメッシュを用いた手術の術後の観察にも有用である.CTでは観察できないメッシュも高エコーで観察でき,メッシュが良い位置に留置されていても,反対側の膣壁の脱出や,メッシュが機能せずに子宮が落ちてくる様子など,治療効果の判定や再発の病態理解にも役立つ.また,腹圧性尿失禁の患者において,蓄尿時に仰臥位で経直腸超音波プローブで観察し,腹圧を掛けると膀胱頚部の過可動性と尿道の開口も観察することが可能である.X線透視でも同様の所見が得られるが,本法は尿道周囲臓器の観察も同時に可能であるし,被爆がないので,X線透視に比して優れた点があると思われる.以上のように,経直腸超音波プローブを用いた女性骨盤臓器の観察は,他のアプローチでは得難い重要な所見を得ることができる.本学会に於いて,その有用性を供覧する.