Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 乳腺甲状腺
ワークショップ 乳腺甲状腺 FNAしなくてよい甲状腺結節とは?(JABTSとの共同企画)

(S351)

微小乳頭癌の経過観察の検討

Follow-up of microcarcinoma of the thyroid

小林 薫

Kaoru KOBAYASHI

隈病院外科

Surgery, Kuma Hospital

キーワード :

【序文】
甲状腺疾患の専門病院である隈病院では低リスクの微小乳頭癌に対して手術を行わず,経過観察するという方針をとっている.微小乳頭癌の経過観察の根拠,対象,方法,結果を呈示する.
【微小乳頭癌の定義】
甲状腺の最大径10mm以下の乳頭癌を微小乳頭癌と定義する.リンパ節転移,遠隔転移の有無は問わない.
【背景】
病理解剖ではラテント癌として微小乳頭癌が高率に発見される.臨床のスクリーニングでは35歳以上の女性,エコーガイド細胞診において3.5%に甲状腺癌が発見され,ほとんどは微小乳頭癌である.これは当時の臨床的罹患率の約1000倍である.超音波検査と細胞診を行うとで微小乳頭癌が極めて高頻度で発見されるようになった.甲状腺癌の発生数を歴史的に検討すると,1990年代から急速に増大してきている.症例数が増大しているのは乳頭癌のみであり,ほとんどが10mm以下,あるいは20mm以下の乳頭癌である.ところが,発生数が増えるにもかかわらず,死亡率は以前と変化がみられない.これは生命に関与しない微小な乳頭癌を超音波検査と細胞診によって多くみつけた結果であろう.
【宮内院長の仮説】
大多数の微小癌は大きくならない無害な癌であろう.しかし,一部の癌は増大進行する.経過観察以外のそれを判別する方法はない.少し大きくなった時点で手術してもおそらく手遅れにならないであろう.
【対象と方法】
細胞診で乳頭癌と診断をつける.患者に告知する.低リスクと考えられる微小癌は経過観察か手術を提示する.このとき,高リスクとみなし,経過観察を行わない微小癌を決定する.頸部リンパ節,遠隔部位に転移がある.被膜外に浸潤があるもの(Ex2),反回神経に接する,気管に浸潤する可能性があるもの.細胞診でhigh-grade malignancyが疑われる,などの症例は手術適応とする.さらに,経過観察中に増大,あらたにリンパ節転移が出現したものは手術をすすめることにする.
【結果・第1報】
以上の方針において微小乳頭癌症例の経過観察を2003年にItoが報告した.最長10年の経過観察,2mm以上を増大と定義した.その結果として微小癌の大きさは70%以上の症例において増大しなかった.10mm以上に増大した症例(10.2%)と,新たに外側リンパ節転移が出現の症例(1.2%)を手術したが,その後再発はなかった.経過観察中に遠隔転移,癌関連死の症例はなかった.
【第2報】
2010年に第2報を報告した.340例の微小癌の経過観察において,3mm増大したものを増大と定義した.経過観察中に3mm以上の増大を示す微小癌は10%以下であった.経過観察中に約1%の症例に新たなリンパ節転移が出現した.その時点で手術を行い,再発を起こした症例は皆無であった.全体として,結果は初回報告と結果は変わらなかった.
【第3報】
2013年に1235例の症例を報告したが結果は変わらなかった.微小癌は高齢者ほど進行しない.むしろ若年者の微小癌は増大し,新たにリンパ節転移をおこしやすい.経過観察中に遠隔転移,癌関連死を起こした症例は皆無であった.
【2010年の甲状腺腫瘍診療ガイドライン】
日本のガイドラインにおいて低リスクの微小乳頭癌の経過観察が採用された.経過観察中に3mm以上の増大を示す微小癌は10%以下.経過観察中に約1%の症例に新たなリンパ節転移が出現.その時点で手術を行い,再発を起こした症例は皆無である.
【結語】
低リスクとされる微小乳頭癌の経過観察は十分に妥当であるといえる.