Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 乳腺甲状腺
パネルディスカッション 乳腺甲状腺1 造影超音波が乳腺診療に何をもたらすのか?(JABTSとの共同企画)

(S341)

ソナゾイド®による造影超音波の原理

Principles of ultrasound contrast imaging using Sonazoid®

工藤 信樹

Nobuki KUDO

北海道大学大学院情報科学研究科生命人間情報科学専攻

Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University

キーワード :

1.はじめに
ソナゾイド®では,気泡を振動させることで生じるエコー信号を用いて造影超音波像を作成する.気泡の振動は超音波の照射条件に強く異存するので,気泡のダイナミクスを良く理解することは超音波造影剤の効果的な利用につながる.
2.造影剤の基本構成
ソナゾイド®の気泡直径は2〜3ミクロンで,水に溶けにくいフッ化炭素ガスの表面が気体の拡散を防ぐ脂質のシェル覆われている構造になっている.気泡は超音波の波長に比べて十分小さいが,固有音響インピーダンスが水と大きく異なるため,強い反射波を生じる.また,超音波照射下で膨張・収縮する気泡には,自ら超音波を発生する効果もあり,気泡は超音波断層画像上に明瞭な輝点として描出される.
3.気泡の音響特性
気泡を破壊することにより造影効果を得るレボビストでは,気泡のエコー信号に広帯域な周波数成分が含まれる.これに対し,気泡を壊さずに径振動させて使われるソナゾイド®では,気泡からのエコー信号に,照射超音波と同じ基本波成分とその整数倍の高調波成分が含まれる.比較的高音圧下で気泡径が大きく変化すると収縮時に気泡が強く圧縮され,エコー信号には高調波成分が多く含まれるようになる.
4.気泡の画像化手法
生体組織のエコー信号に比べると微小気泡のエコー信号ははるかに小さく,造影画像を作るには,反射信号から生体組織からの信号を取り除く必要がある.その方法は,大きくフィルタ法,位相・振幅変調法,ドプラ法に分類される.
フィルタ法 生体組織と微小気泡を各々のエコー信号の周波数成分の違いによって分離する方法である.生体組織が生じる反射信号は,基本周波数成分が主であるのに対し,強く振動する気泡の信号は高調波成分を多く含むため,周波数フィルタを用いて高調波成分のみを取り出し,画像化することにより造影画像を作成できる.
位相・振幅変調法 空間分解能が高い短いパルス超音波を用いると,基本波と高調波共に周波数帯域幅が広がり,単純な周波数フィルタで高調波成分のみを分離することが難しくなる.そこで,超音波を気泡に複数回照射し,反射信号間で演算することにより基本波成分を除去する手法が提案されている.
ドプラ法 ドプラ法は,対象物体の動きに着目し,動かないが強い反射を生じる生体組織を除去して,反射は弱いが高速で移動する血流のみを描出する手法である.微小気泡の移動はもちろん,気泡の径振動や消失などもドプラ法で検出することが可能であり,最新のドプラ手法が超音波造影法にも利用されている.
5.造影剤の安全性
造影剤を生体内に導入することは,超音波の非熱的生体作用の主なる発生機序であるイナーシャルキャビテーションの音圧閾値を低下させることにつながる.生体作用の可能性を低減するために,世界超音波連合では,造影剤の用量をなるべく少なくし,よりMIが低く周波数が高い超音波を用いて,短時間で診断を終えることを推奨している.また心エコーでは,期外収縮の発生を避けるために心電同期を用いることが有効とされている.音響放射圧(ARFI)イメージングや結石破砕術など,通常の診断装置よりも強い圧力波が造影剤気泡に加わることは想定されていないので,これらの手技と造影剤の併用は避けるべきである.
6.まとめ
造影超音波は,超音波診断の新しい可能性を拓く有効な手技であると同時に,生体作用を増加させる可能性も否定できない.造影剤の特徴を理解して安全な利用を心がける必要がある.