Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 乳腺甲状腺
シンポジウム 乳腺甲状腺3 Comprehensive ultrasound in breast(JABTSとの共同企画)

(S335)

Comprehensive ultrasoundによる乳腺腫瘤診断の有用性の検討

The Usefulness of comprehensive ultrasound diagnosis in breast tumors

奥野 敏隆

Toshitaka OKUNO

西神戸医療センター乳腺外科

Breast Surgery, Nishi-kobe Medical Center

キーワード :

【背景と目的】
乳房超音波の基本はBモード法である.これは超音波組織特性に基づき,組織像を反映したエコーを輝度変調して得られた断層像から病理像を読み解く形態診断である.カラードプラ法(以下CD)はドプラ効果を用い,血流から得られるドプラ偏移周波数の情報をリアルタイムにカラーでBモード画像に重ねて表示したもので血流動態診断である.エラストグラフィ(以下EG)として最も普及しているstrain imagingは組織を圧迫した際に生じるひずみ(相対的な硬さ)を半透明に色づけしてBモード画像に重ねて表示し,エリア内の相対的な硬さを評価する組織性状診断である.乳癌検診における乳房超音波のニーズが高まるなか,Nakashimaらは診断能の向上,精密検査の効率化を目的としてBモードにカラードプラ法(以下CD)とエラストグラフィ(以下EG)を追加するcomprehensive ultrasound diagnosisを提唱した.従来はBモード超音波を行い,カテゴリー3以上の病変に対して細胞診や針生検を行うのが一般的であった.しかしBモードにCDとEGを追加することで良性腫瘤は良性と確信でき,無用の穿刺生検を回避できるかもしれない.また,Bモードだけでは見落としていた乳癌を拾い上げることができるかもしれない.Bモード+CD+EGの具体的な総合判定法に定まったものは見当たらない.そこで今回Bモード+CD+EGの総合判定法を策定し,その有用性を検証したので報告し,BモードにCDとEGを追加することの意義について論じたい.
【対象】
Bモード法にCDとEGを追加して超音波検査を行った乳腺腫瘤性病変66例を対象とした.内訳は良性31例(切除5例,針生検6例,細胞診+2年以上経過観察20例),乳癌(全例手術施行)35例.
【方法】
使用機種は日立アロカ社製Preirus.BモードとEGは静止画像を,CDは動画像を評価し,乳房超音波診断ガイドラインに準じてBモードカテゴリー判定と血流評価を行い,EGはつくば弾性スコアに準じて判定を行った.CDで貫入・貫通する血流,周辺の血流増加を認めた場合は+1,血流を認めない,あるいは境界部に沿う血流を認めた場合は-1をBモードカテゴリー判定に追加,またEGでエラストスコア1,2では-1,スコア3では0,スコア4,5では+1をBモードカテゴリー判定に追加して総合判定とした.カテゴリー2,3a,3bを良性,カテゴリー4,5を悪性としてBモード,Bモード+CD,Bモード+EG,Bモード+CD+EGの診断能を比較検討した.
【結果】
(感度,特異度,正診率)はBモード:(83%,94%,88%),Bモード+CD:(94%,84%,89%),Bモード+EG:(89%,97%,92%),Bモード+CD+EG:(94%,97%,95%)であった.良性腫瘤のカテゴリー2,カテゴリー3はそれぞれBモードでは3例,26例,Bモード+CD+EGでは24例,5例であった.
【考察】
Bモード法にCDを追加すると感度,EGを追加すると特異度の向上が得られ,CDとEGの両方を追加すると感度,特異度,正診率いずれも向上した.CDだけ追加すると特異度の低下を伴った.BモードにCDとEGを追加することによりカテゴリー3の良性腫瘤の大半をカテゴリー2にすることができ,無用の細胞診や針生検を回避できる可能性が示唆された.Bモードだけで十分なもの,CDやEGを追加しても穿刺生検を要するものを選別していくことも課題と考える.