Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 乳腺甲状腺
シンポジウム 乳腺甲状腺1 乳腺腫瘍の病理分類と超音波診断(JABTSとの共同企画)

(S327)

ダブルスタンダードの継承は可能か〜臨床と教育の視点から

Is it possible to success the double standard? —From a viewpoint of the clinical practice and education

田中 久美子

Kumiko TANAKA

湘南鎌倉総合病院乳腺外科

Breast Surgery, Shonan Kamakura General Hospital

キーワード :

本邦の乳腺病理診断には,WHO分類と乳癌取扱い規約(以下,規約)分類の二つがあり,ダブルスタンダードといえるであろう.私は乳腺外科医として規約分類の病理診断で3年間乳腺疾患を学んだ後,WHO分類で診断を行う病理医と共に10年ほど乳腺診療に従事した.現在は院内および外注の病理診断で,規約に沿った診断に接している.どちらの診断でも,組織学的波及度や異型度,サブタイプなどが変わるわけではない.異型病変に対する診断には差異があるが,実地臨床上それほど問題にならないという認識を持っている.
しかし,あらためてWHO分類と規約の分類を対比してみると,かなりの相違があることも事実である.WHO分類には無い,規約分類の乳頭腺管癌・充実腺管癌・硬癌の分類は,形態や組織特性を基にして超音波画像を理解するのに適当で,増殖態度や分化度をある程度反映しており,広がり予測にも役立つが,サブタイプによる悪性度評価が普及した今は,組織型を3型に分類することの意義は薄れている印象がある.この3型が継承されていくには,病理医がその診断を継続する必要があり,これが可能で望ましいことなのかどうかは,病理医の見解や議論を待たなければならないが,病理画像対応しやすい組織型分類を診療に教育に役立ててきた立場からは,継続されると良いと考えている.しかし,ダブルスタンダードの存在は,どちらか一つの基準でのデータ登録ということでは問題がある.乳がん登録は規約の組織型の記載が求められるが,WHO診断された乳癌はどう扱われているのか,疑問が残る.
教育という立場でいえば,JABTSから精中機構に移管された乳房超音波講習会の教材作成や講習会にここ数年関わっている.昨年行われた改訂で,講習会では,講義の中で,本邦でなされている病理診断には2種類あることと,講習会の教材は規約に沿ったものであることを解説するようになった.現在,超音波講習会の試験では,組織型を答えさせているが,今後これをどうするかは検討の必要があり,すでに検討委員会の立ち上げも決まっている.
研究活動の面では,規約の分類は国際的に通用しないので,病理や画像に関する発表を行う時,WHO分類を用いている人にどう説明するかということに苦慮するし,正確に伝わらない可能性がある.
以上,まとまりはないがいくつかの問題点を挙げてみた.
ダブルスタンダードというのは,あまり良くないもののようにとらえられがちであるが,本邦では長年にわたりダブルスタンダードで診療や教育が行われてきた.どちらの診断基準にも考え方や理念があり,一本化することは難しいであろう.これをもう少し磨き上げる,すなわち二つの基準の相違と整合性を検討し理解できるならば,そこは両立でも良いのではないかというのが私の個人的な見解である.超音波診断でも国際(BIRADS)分類とJABTSの分類があり,どちらが優れているとも言い難く,整合性を考える努力はしている.
今後は,各領域でこの問題に対する基本的な考えを決めた上で乳癌学会や乳腺診療に関わる多領域の代表者による横断的な組織を作り,学会でDebateなども行ってオープンな議論を行い,より良いダブルスタンダードのあり方を模索し発信するというプロセスが形成されることが望ましいと考えている.発表では,このような立場から,より具体的な事例を示してお話ししたい.