Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 乳腺甲状腺
シンポジウム 乳腺甲状腺1 乳腺腫瘍の病理分類と超音波診断(JABTSとの共同企画)

(S327)

超音波診断を行う上で乳腺病理をどう理解するか

Optimizing breast ultrasound technique by integrating knowledge of various pathological classification descriptions

河内 伸江1, 角田 博子1, 森下 恵美子1, 松岡 由紀1, 鈴木 高祐2

Nobue KAWAUCHI1, Hiroko TSUNODA1, Emiko MORISHITA1, Yuki MATSUOKA1, Kohyu SUZUKI2

1聖路加国際病院放射線科, 2聖路加国際病院病理診断科

1Radiology, St. Lukes International Hospital, 2Pathology, St. Lukes International Hospital

キーワード :

現在わが国で使用されている乳癌の組織型分類は,日本乳癌学会の臨床・病理乳癌取扱い規約の「乳腺腫瘍の組織学的分類」と国際的に使用されているWHO分類がある.日本乳癌学会はWHO分類の非特殊型浸潤癌にあたる最も一般的乳癌を乳頭腺管癌,充実腺管癌,硬癌と分類しており,この独自の分類が特徴の1つといえる.それぞれの組織型の癌巣の進展形式と組織学的分化度は,乳頭腺管癌は管内進展型で高分化,充実腺管癌は管外圧排性で中ないし低分化,硬癌は管外浸潤性で低分化である.この分類は乳癌の進展形式をよく反映し,組織型を知ることが精査・治療に有用であるとされてきた.そして,この組織型形態は超音波画像に極めてよく反映されることから広く普及してきた.すなわち,乳頭腺管癌の管内進展型では,腺腔形成性に成長することから境界は粗ぞうとなる.管内進展の特徴を反映し,縦横比が小さいことも少なくない.充実腺管癌では管外圧排性することが特徴であるため,境界部高エコー像は形成されにくく,比較的境界明瞭そぞうな限局した低エコー腫瘤として認識されることが多い.細胞成分が多いため,後方エコーは増強する.縦横比が大きくなることも多い.硬癌の場合は,浸潤により境界部高エコー像が形成され,豊富な膠原線維の生成により後方エコーは減衰する.このように超音波所見から組織型を推定することが可能であり,ひいては広がりなどの重要な情報に結びつき,術前診断に有用であるといえる.
かつては,乳頭腺管癌が良好,充実腺管癌が中間,硬癌が不良であるといった予後と形態の関係が言及されていたが,この形態と予後の関係は必ずしも正しくないことがすでに分かっており,現在,乳癌の治療において,上記の形態分類よりホルモン受容体およびHER2蛋白過剰発現の情報がより重要である.また,上記3つの組織は,混在していることも極めて多く,実際の臨床上,厳密に三型に分類されるものでもない.
そこで,当院では,組織の成り立ちを理解するために,形状,エコーレベル,境界などの画像の所見を報告書に記載し,進展様式を考えているものの,超音波検査の結論に乳頭腺管癌,充実腺管癌,硬癌といった日本乳癌学会の分類を記載しなくなっている.
しかし,予後不良のトリプルネガティブ乳癌が充実腺管癌の形態を示す事が多い,浸潤癌のなかで超音波形態が異なる場合,病変の不均一性を意味すること,など,日本乳癌学会分類にもとづく超音波画像の理解は,決して不利益をもたらすものではなく,依然として,組織と超音波の特性の両方の理解を深めるのに大きく寄与するものと考えられる.また,初学者には,マクロ病理と画像の対比が非常に理解しやすく,超音波検査のスキルを効率よく向上させることに役立っているといえよう.
今後も,超音波診断を行う上で,日本乳癌学会の分類を理解してマクロ病理と対比し,WHO分類も,併用していくのが望ましいと考えられ,そのことで診療現場が混乱するリスクはないものと考えられる.