Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 産婦人科
シンポジウム 産婦人科2 最近の超音波診断装置で胎児のどこまで観察可能か

(S308)

前置血管は超音波検査でしか診断できない

Diagnosis of vasa previa is made only during pregnancy using ultrasound

長谷川 潤一

Junichi HASEGAWA

昭和大学医学部産婦人科学講座

Obstetrics and Gynecology, Showa Univerdsity School of Medicine

キーワード :

前置血管は,ワルトン膠質によって保護されないむき出しの臍帯血管が卵膜上を走行する卵膜血管が内子宮口付近に存在する異常である.破水時に卵膜の破裂とともに,その脆弱な卵膜血管が断裂してしまったり,未診断で経腟分娩中に胎児先進部の圧迫によって,血流不全となり,急激な胎児機能不全,胎児死亡の原因となることがある.前置血管での破水例は,高率に胎児死亡を惹き起こすため,妊娠中の未診断例と診断例における児の予後は大きく異なる.前置血管の児を救うためには妊娠中の超音波診断と破水前の帝切が必須である.
前置血管は重篤な胎児予後に関連するにもかかわらず,古くは,その頻度が稀であることから(1/2000程度と考えられていた),全例にスクリーニングを行うことは,費用対効果の観点からもあまり着目されてこなかった.しかし,我々の妊娠初期からの超音波検査による前置血管のスクリーニングでは,およそ1/500の頻度であることが明らかになった.これは,前置血管が低置胎盤や胎児心拍数異常をしばしば合併するため,帝王切開で分娩に至るケースが多く,娩出後胎盤では前置血管であったかどうかはわからず,少なく見積もられていたためであると考えられた.前置血管は超音波検査でしか診断できないのである.
前置血管は稀ではないこと,さらなる周産期予後の改善を目的とするため,近年,各国の前置血管のガイドラインが散見されるようになった.ことさら臍帯異常は,妊娠中の突然の胎児死亡や,分娩中の急激な胎児機能不全と深く関連し,前置血管もそのひとつである.しかし,他の臍帯異常は突如発生することもあるが,卵膜付着・前置血管は妊娠中期に形成された後は変わることはない.そのため,卵膜付着・前置血管は,妊娠中に一度でも正しく診断されればほぼ間違いはない.
当院では10年以上,初期に子宮の中での臍帯付着部位を確認すること,中期に胎盤と臍帯付着部位を確認すること,頸管長と前置胎盤のチェック時に確認することで,前置血管を分娩前にすべて診断してきた.慣れるまでは多少のコツと時間が必要であるが,卵膜付着・前置血管に起因する重篤な児の障害を回避するためには,ほんの僅かな気遣い,労力であると我々は確信している.この前置血管に対する認識とスクリーニングが広く普及することが望まれる.