Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 消化器
ワークショップ 消化器4 肝臓の硬さ診断:その精度と使途

(S299)

新たに導入されたShear wave with Smart mapsの肝硬変診断に対する有用性

Shear wave with Smart maps for the Diagnosis of Cirrhosis

丸山 紀史, 関本 匡, 近藤 孝行

Hitoshi MARUYAMA, Tadashi SEKIMOTO, Takayuki KONDO

千葉大学大学院医学研究院消化器腎臓内科学

Department of Gastroenterology and Nephrology, Chiba University Graduate School of Medicine

キーワード :

【目的】
肝線維化程度の評価は,慢性肝疾患の進行度判定に有用である.近年,肝弾性度elasticityの非侵襲的診断手法が,肝組織診断に替わる肝疾患評価法として広く普及してきた.中でもShear wave elastographyは,簡便性,幅広い適用,そして信頼性を同時に満たす非侵襲的肝線維化推定法として注目されている.ここで,新たに導入されたShear wave with Smart maps(S-SM,東芝)は,せん断波の伝播状態をリアルタイム下映像で確認できること(Propagation mode, PM)を特徴とし,従来の手法に比べて計測誤差の軽減を可能とする技術として期待されている.今回,S-SMとFibroScan(FS; 502,Echosens, Paris, France)を慢性肝疾患例において施行し,両者の比較を通してS-SMの有用性を明らかにした.
【方法】
対象は,2014年11月から2015年1月までに教室で経験した慢性肝疾患46例(男性26,女性20,60.2±13.5才)である.内訳は,慢性肝炎11例(組織診断なし4例)と組織あるいは画像診断によって診断された肝硬変35例であり10例(64.5±17.6才,男性5,女性5)において腹水を伴っていた(軽度8,中等量以上2).S-SMについては,APLIO500(東芝),コンベックスプローブを使用し空腹時,安静背臥位で行った.右肋間走査で肝右葉を描出し,径10mmの円形関心領域(ROI)を肝表面から深部へ向けて直線状に3個設定した.そして,安定した計測が可能な深部側2個のROI値を採用した.複数回の計測を行い(7.8±2.5回,2-10),弾性率の中央値をS-SM値とした.一方,FSではMプローブを使用し,10回の計測値(success rate>60%,interquartile range<30%)の中央値を弾性値(FS値)と定義した.本臨床研究は倫理委員会で承認された前向き臨床試験で,各症例の同意のもとで施行された.
【成績】
1.肝硬変に対する診断能:対象全例において,肝硬変診断に対するS-SM値のBest cut-off値は12.9 kPaであり,感度1.0,特異度0.727,PPV 0.921,NPV1.0,正診率0.935,AUROCは0.868(95%CI,0.0-1.0)であった.ここでPM所見上,波の乱れや間隔不均等などによって伝搬状態が不良と視覚判定された例においては,ROI内の計測値標準偏差(R-SD)が高値を示す傾向にあった.そこでR-SDが,その中央値平均である13.8 kPa未満の症例(計測条件良好群,n=28)に限定してS-SM値の検討を行うと,感度1.0,特異度0.889,PPV 0.95,NPV 1.0,正診率0.964,AUROC 0.977であった.一方FSによる検討では,FS値のBest cut-off値は11.0kPaで,感度0.962,特異度0.857,PPV 0.962,NPV 0.857,正診率0.939でAUROC 0.940であった.S-SM計測条件良好群に限定した検討では,S-SM値とFS値に有意な正の相関を認めた(r=0.682,p<0.001).
2.腹水例での検討:有腹水肝硬変10例における検討では,S-SMでは全例で計測可能(37.8±14.8 kPa)であったが,FSでは5例でのみ測定値が得られた(31.7±9.3 kPa).
3.門脈圧との関連:肝静脈圧測定とS-SM計測が施行された6例の検討では,S-SM値と閉塞肝静脈圧(WHVP; r=0.62,p=0.038),肝静脈圧較差(HVPG; r=0.46,p=0.275)に正の相関を認めた.
【結語】
S-SMにおけるせん断波伝播状況の視認機能PMは,弾性度測定の精度向上に有用であり,良好条件下での計測例では極めて高い診断能を呈した.本法は,非侵襲的肝線維化推定における標準的な手法として位置づけられる.