Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 消化器
ワークショップ 消化器2 消化管診断:超音波でどこまで診断できる?どこまで診断すべき?

(S292)

回盲部・虫垂について

Diagnosis of alimentary tract;How far can and should ultrasound diagnose?;about ileocecum and appendix

長谷川 雄一1, 浅野 幸宏1, 鹿島 励2

Yuichi HASEGAWA1, Yukihiro ASANO1, Rei KASHIMA2

1成田赤十字病院検査部生理検査課, 2成田赤十字病院内科

1Department of Clinical Functional Physiology, Narita Red Cross Hospital, 2Department of Internal Medicine, Narita Red Cross Hospital

キーワード :

【はじめに】
近年,消化管病変に対しての体外式超音波検査(以下US)によるアプローチが盛んに行なわれており,その有用性についての報告も多い.今回我々は,解剖学的部位ごとの診断可能疾患を明らかにすべく回盲部,虫垂疾患において遭遇する頻度の高い急性虫垂炎に主眼をおいて診断能について検討を行なった.
【方法】
対象は2014年1月から2014年12月までの間に,当院で経験した急性虫垂炎症例(疑いも含む)174例.うち55例は開腹手術が施行され,術前に造影超音波を施行した24例を含む.残り119例は保存的に治療された.USは全例病歴聴取と理学的所見の評価後,速やかに無処置にて施行した.虫垂の確実なUS診断の第一歩は,虫垂自体が描出されるか否かであるため,系統的走査法を必須とした.急性虫垂炎のUS診断は虫垂短軸径6mm以上かつ同部に圧痛を認めるものを虫垂炎と判断し,層構造の変化の観察,間接・付加所見(虫垂間膜や回盲部浮腫,膿瘍形成等)を観察し,症例によりカラードプラを併用し病期の推測を行った.また,造影超音波検査による染影の有無を「虚血なし」と「虚血あり」に区分し,それぞれが最終病理診断の結果と一致するか否かを検討した.使用機種は東芝TUS-A500,中心周波数3.75−7MHzプローブを適宜使用した.超音波造影剤はソナゾイド®を使用した.
【結果】
急性虫垂炎の診断に関する検討では,USでの診断率は174例中167例,95.6%であった.USで診断出来なかった7例については,超音波減衰による描出不良が4例,回盲部が骨盤腔内に存在し解剖のオリエンテーションが付かないものが3例であった.急性虫垂炎と診断され手術した55例のうち,緊急手術を施行した34例について病期の検討を行ったところ,USにおける蜂窩織炎性が9/11(81.8%),壊疽性が16/19(84.2%),穿孔性が3/4(75.0%)の正診率であった.造影超音波の診断に関する検討では,カタル性1例,蜂窩織炎性13例,壊疽性10例であるが,感度は80%,特異度が85.5%,陽性的中率80%,陰性適正率で85.5%であった.
【結語】
回盲部,虫垂のUS診断については,特に虫垂の確実な描出がUS診断の第一歩であり上行結腸-回盲弁-虫垂開口部の順に同定を進める系統的走査が必須である.急性虫垂炎は虫垂の腫大,層構造の変化,描出部位での最大圧痛,さらには虫垂間膜や回盲部の浮腫などにより,その重症度も含めて診断可能である.急性虫垂炎に類似した病態には,回腸末端炎,感染性腸炎(エルシニア腸炎),盲腸部憩室炎,クローン病などが挙げられ鑑別が困難な場合も多い.しかし他疾患の特徴的なUS像を指摘することはもちろんであるが,正常虫垂を描出し虫垂炎の可能性を完全否定することも重要である.
一方,腫瘍性疾患においては虫垂腫瘍の約40%に虫垂炎を合併する報告も見られ,穿孔などの合併症の出現が受診契機となることから,US施行時に典型的画像を呈しているとは限らないことに留意する必要がある.また,造影USは,血流の欠損を正確に把握することが可能であり,保険適用外ではあるが壊疽性虫垂炎と蜂窩織炎性虫垂炎の鑑別,さらには腫瘍性疾患に有用である.USは炎症,腫瘍いずれの病態においても虫垂の層構造を含めた詳細な評価が可能であることから,形態学的診断として第一選択となる検査法である.