Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 消化器
シンポジウム 消化器1 Critical pointを決定する超音波のサイン

(S262)

Critical pointを決定する超音波のサイン〜消化管領域〜

The warning sonographic signs of the gastrointestinal tract

畠 二郎1, 今村 祐志1, 眞部 紀明1, 河合 良介1, 鎌田 智有2, 中藤 流以2, 小山 展子3, 塚本 真知4, 高田 珠子5, 春間 賢2

Jiro HATA1, Hiroshi IMAMURA1, Noriaki MANABE1, Ryosuke KAWAI1, Tomoari KAMATA2, Rui NAKATOH2, Nobuko KOYAMA3, Machi TSUKAMOTO4, Tamako TAKATA5, Ken HARUMA2

1川崎医科大学検査診断学, 2川崎医科大学食道・胃腸内科, 3川崎医科大学肝胆膵内科, 4川崎医科大学総合臨床医学, 5三菱三原病院内科

1Dept. of Endoscopy and Ultrasound, Kawasaki Medical School, 2Dept. of Gastroenterology, Kawasaki Medical School, 3Dept. of Hepatology and Pancreatology, Kawasaki Medical School, 4Dept. of General Medicine, Kawasaki Medical School, 5Dept. of Internal Medicine, Mitsubishi Mihara Hospital

キーワード :

【緒言】
本来超音波診断は,得られた画像により検査前診断を支持する所見あるいは否定する所見を拾い上げ,より特異性の高い所見を描出し,各症例における主訴,病歴,他の検査所見などとの整合性を吟味するという緻密な作業の繰り返しによりなされる(べきである).特に時間的余裕のない急性腹症においてこそ上記のステップを迅速かつ慎重に施行した上での正確な診断が要求される.急性腹症の原因として消化管疾患の頻度は高くかつ疾患の種類も豊富であるため,基本的にはat a glanceのイメージ診断ではなく,正確な解剖学的診断に始まるいくつかのチェックポイントを基に診断を決定する.一方でpoint of careの超音波検査(以下POCUS)で比較的容易に検出可能であり,さほど機器性能や検者の技量に依存しないが,患者の予後を左右するような重要なサインにはどのようなものがあるかを検討する,ということが本企画の主目的であると考える.そこで消化管疾患に関連する超音波画像のうち,緊急手術を含めた早急な対応を考慮すべきサインを3つ挙げてみたい.
【キラキラ】
消化管穿孔などに伴うfree airの超音波像として,肝被膜直上の帯状の高エコー(線状高エコーとその多重反射)があらゆるテキストに呈示されており,典型像では診断に迷うことは少ないであろう.一方free airが小さい,少量または逆に多量,あるいは壁側腹膜直下に到達していない場合などでは見逃される危険性が高いようである.基本的にはfree airを疑う場合は必ず高周波プローブを用いるべきであるが,POCUSにおいては何となくキラキラした部位があることで気付かれるであろう.言うまでもなくこのキラキラは強い反射体である気泡に起因するものである.また別のキラキラの要因として異物からの反射もある.この場合異物の表面が平滑であるほどそれに対して垂直に近い角度で超音波ビームを当てないとキラキラは得られないことに注意を要する.
【モヤモヤ】
FASTに代表されるように腹水の検出自体はさほど難しいものではないが,同時に腹水の性状を評価することも重要である.腹水が超音波上完全に無エコーではなく,何かモヤモヤした印象を受ける場合には小さな散乱体が浮遊していることを反映しており,出血,感染,癌性腹膜炎などを示唆している.特に急性腹症においては腹腔内出血,絞扼性腸閉塞,消化管穿孔などを疑う必要がある.描出上の注意点としてはゲインを高めに,ダイナミックレンジを広めにすること,解釈上の注意点としては腹壁直下や消化管近傍では多重反射やサイドローブと混同しないことが挙げられる.
【ダラダラ】
腸閉塞の超音波像としていわゆるkeyboard signが広く知られているが,これを描出するだけでは超音波を施行する意味はない.腸閉塞の治療方針を決定する上で重要なことは単純性腸閉塞と絞扼性腸閉塞,麻痺性イレウスを鑑別することであり,後2者はより緊急性が高い.造影超音波などにより他のmodality以上な精度で診断可能であるが,POCUSで腸管虚血や腸管麻痺を強く疑うサインとしては拡張した腸管がダラダラしている,つまり蠕動が低下していることが挙げられ,内容物もあまり移動せずやはりダラダラしている.
【結語】
以上のサインは空間分解能やリアルタイム性に優れた超音波ならではのものであり,これらを検出することで的確な診療方針の決定に役立つ.ただし画像診断の王道は詳細な画像の解析にあり,何もかも○○サインで片づける習慣は危険であることも強調しておく.