Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 循環器
パネルディスカッション 循環器3 全身性疾患診療における心・血管エコーの役割

(S248)

サルコイドーシス診療における心エコー図検査の重要性

Utility of Echocardiography for Sarcoidosis

小板橋 俊美, 猪又 孝元, 柿崎 良太, 鍋田 健, 石井 俊輔, 前川 恵美, 阿古 潤哉

Toshimi KOITABASHI, Takayuki INOMATA, Ryouta KAKIZAKI, Takeru NABETA, Shunsuke ISHII, Emi MAEKAWA, Junya AKO

北里大学医学部循環器内科学

Cardiovascular Medicine, Kitasato University

キーワード :

【背景】
サルコイドーシスとは,原因不明の全身性の炎症性肉芽腫性疾患である.心病変合併例は予後不良であるが,早期ステロイド(PSL)治療にて予後改善が期待できる.しかし,初期には典型的な所見を呈さず,また診断には特殊な検査を要するため早期診断は難しい.一方,治療後でもPSL減量過程での再燃例があり,活動性評価も重要な課題である.
Gaシンチグラフィー,FDGPET,心臓MRIは炎症活動性評価に用いられるが,いずれも問題を抱えており,単独では治療戦略を決定できない場合も多い.
心エコー図検査は,臨床診断項目に特定の所見のみが挙げられているが,心サルコイドーシス(CS)は多種多様な形態,病態,経過を辿り,サルコイドーシス診療における役割は奥深い.
【方法と結果】
2002年から2014年でCSと診断された35例を対象とし,1.診断,2.自然経過,3.活動性評価,4.PSL治療後経過の観点で検討した.
1.サルコイドーシス未診断で初診が循環器内科であった症例の主訴は完全房室ブロックや心室頻拍,心不全であったのに対し,他臓器サルコイドーシスの経過中にCSと診断された症例では心エコー図検査での異常所見の出現がきっかけとなっていた.CS診断時の心形態として,診断基準項目以外にも,不整脈原性右室心筋症様(1例),腫瘤性病変(1例)や心室中隔中部の菲薄化(3例)などの特殊形態を呈した症例が認められた.
2.PSL未治療期間のあった5例で自然経過を観察し得た.診断時ごく一部の壁運動低下を呈した症例は5年の経過で拡張型心筋症(DCM)様となった.もともとDCM様の症例では3年間で更なる心機能低下と心腔拡大,機能性僧帽弁逆流の増悪を認め,重症心不全症例へと進展した.HCM様であった症例は,壁運動低下を伴う心室中隔の菲薄化が出現し,壁肥厚が混在する拡張相HCM様となった.心臓手術前後で急激な心室中隔基部の菲薄化をきたした症例も認めた.
3.活動性評価と4.治療後経過において,Ga SPECT/CTで異常所見を認めた15例を対象として検討した.左室を4分画し,炎症を示唆するGa SPECT/CTでの陽性部位と,心エコー図で検出される異常部位との一致性を比較すると,壁肥厚は16分画(26.7%,8例)に認め,うち15分画がGaシンチ陽性部位と一致した(陽性的中率93.8%,特異度96.0%).また,一致した15分画ではすべて壁運動低下を伴っていた.これら壁肥厚を伴う8例中7例でPSL治療を開始し,1ヶ月後のGa SPECT/CTでは,全例でGa集積は消失したが,心エコー図検査での異常所見は残存していた.一方,PSL開始約1年後の慢性期においては,2例を除き,壁厚は減少し壁運動が改善した.肥厚部分の壁厚が変化しなかった1例は,PSL漸減の過程でGa SPECT/CTにてリンパ節への再集積とFDG-PETでの心筋への集積を認め,活動性の再燃が疑われた.また,心室中隔基部の菲薄化は進行していた.
【結語】
CSはその病態と病期により異なった形態・機能異常を呈しうる.時に他心疾患に類似した形態をとりえ,心筋症や腫瘤の原因精査時には常にCSを疑うことが早期診断につながる.特にPSL未投与下における壁肥厚は,CSの炎症活動性を反映している初期病変である可能性がある.壁肥厚部分の壁運動低下は,PSL治療により改善する可能性を秘めており,見逃してはならない所見である.心エコー図では炎症そのものを検出することはできないが,総合的に判断せざるをえない活動性評価の現状では,壁厚にも注目した心エコー図所見が,有用な1ツールとなりえる.心エコー図検査は,診断から治療方針決定において,このヘテロな集団の層別化をはかり,各病態にあった適切な治療方針を導くことに貢献しうると考える.