Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 循環器
パネルディスカッション 循環器3 全身性疾患診療における心・血管エコーの役割

(S247)

糖尿病患者における潜在性左室心筋障害と微小血管障害との関連

Impact of Microvascular Complications on subclinical Left Ventricular Systolic Dysfunction in Patients with Diabetes Mellitus

望月 泰秀, 田中 秀和, 松本 賢亮, 佐野 浩之, 大岡 順一, 土岐 啓己, 佐和 琢磨, 元地 由樹, 漁 恵子, 平田 健一

Yasuhide MOCHIZUKI, Hidekazu TANAKA, Kensuke MATSUMOTO, Hiroyuki SANO, Junichi OOKA, Hiromi TOKI, Takuma SAWA, Yoshiki MOTOJI, Keiko RYO, Kenichi HIRATA

神戸大学大学院医学研究科循環器内科学分野

Division of Cardiovascular Medicine, Department of Internal Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine

キーワード :

【背景】
以前より糖尿病性心筋症の存在が議論されており,糖尿病自体が心不全,特に左室拡張不全の危険因子の一つであると考えられている.一方,左室駆出率が保持された冠動脈疾患のない糖尿病患者では,左室長軸方向の心筋収縮能が将来の左室のリモデリングならびに心不全の発症の独立した危険因子であると報告されている.さらに,近年左室長軸方向の心筋収縮能は左室拡張能よりも鋭敏に糖尿病性心筋症を検出できる指標であるとも報告されている.しかしながら,左室長軸方向の心筋収縮能をきたす患者背景の特徴,危険因子の層別化は十分検討されていない.
【方法】
当院にて糖尿病で精査入院中であり,左室駆出率が保持された(≥50%)144例を対象とした(年齢:57±15歳,女性:55%,左室駆出率:66±4%).全例トレッドミル試験ならびに負荷心筋シンチグラフィにて虚血性心疾患は否定された.左室長軸方向の収縮能は2次元speckle tracking法を用いて,心尖部3断面18領域のpeak longitudinal strainの平均から算出した(GLS).また,過去の報告に基づき,GLS<18%を糖尿病性心筋障害と定義した.糖尿病性微小血管障害として腎症,神経症,網膜症を評価した.24時間蓄尿での尿中アルブミン量30mg/日以上を腎症,末梢神経症状と神経伝達速度異常が存在する例を神経症,単純性網膜症以上の存在を網膜症と定義した.さらに,Body Mass Index≥25kg/m2を肥満と定義した.
【結果】
53例(37%)においてGLSの低下を認めた.多変量ロジスティック回帰分析では,肥満(オッズ比=3.0,p=0.01),2型糖尿病(オッズ比=5.3,p=0.01),腎症(オッズ比=6.2,p<0.001),神経症(オッズ比=4.1,p=0.004)が独立したGLS低下の規定因子であり,腎症が最も強いGLS低下のリスクファクターであった.逐次投入法では,患者背景(年齢,性別,2型糖尿病,糖尿病罹患期間,χ2=30.2)に肥満を加えたモデルにおいて有意にGLSの低下を規定し(χ2=40.2,p=0.002),さらに腎症,神経症を加えることにより予測精度が高まった(χ2=68.3,p<0.001).また尿中アルブミン量はGLSと有意な負の相関関係があり(r=-0.51,p<0.001),多変量重回帰分析では最も強いGLSの規定因子であった(β=-0.33,p<0.001).
【結論】
糖尿病患者では,腎症,神経症の合併症の評価を詳細に行うことが無症候性左室心筋障害の早期診断につながり,実臨床診療に有用であると考えられた.