土肥 薫¹, 杉浦 英美喜¹, 伊藤 正明²

Kaoru DOHI¹, Emiyo SUGIURA¹, Masaaki ITO²

¹三重大学医学部附属病院循環器内科, ²三重大学大学院循環器・腎臓内科学

¹Department of Cardiology, Mie University Hospital, ²Department of Cardiology and Nephrology, Mie University Graduate School of Medicine

キーワード :

心臓超音波検査を用いた右室機能指標は複数あるが，米国心エコー図学会のガイドラインでは，心尖部四腔断層像における右室面積変化率，Мモードによる三尖弁輪収縮期移動距離（TAPSE），組織ドプラ法による三尖弁輪収縮期移動速度（S’），および右室心筋パフォーマンス指標（MPI）のいずれか2つ以上を組み合わせて右室機能異常の判定や重症度評価を行い，ルーチン検査でも少なくとも1つを計測に取り入れるべきと推奨している．右室では，長軸機能が全体的な機能を最も強く反映するため，三尖弁輪の長軸方向への移動距離であるTAPSEは，右室機能評価に適した指標と言える．本邦の肺高血圧症治療ガイドラインでは，TAPSE＜15mmと心嚢液貯留の有無を肺高血圧症の重症度判定および予後予測に用いるよう推奨している．しかし，三尖弁輪の長軸方向への運動と超音波入射角に乖離がある場合や，心周期で心臓の全体動が顕著な場合は，過小あるいは過大評価される恐れがある．また，TAPSEの計測値は心臓のサイズに影響される．つまり大きな心臓であれば，同じ右室機能であってもTAPSEは高値となり得る．このようなTAPSE計測の問題点を克服する右室機能評価法として，ストレイン法が注目されている．ストレインは心筋の初期長（拡張末期長）に対する伸縮を比率化したものである．スペックルトラッキング法の登場により計測精度の角度依存性が解消され，曲線性の高い場合でも高い再現性でストレイン値を算出できる．我々は，急性肺塞栓症（n=37），慢性肺高血圧症（n=36），健常者（n=33）でストレイン法を用いた右室機能を比較検討した詳細なデータを基に，急性・慢性右室負荷が右室動態に及ぼす影響を考察したい．
また，左心系疾患症例では，左室のみならず右室機能の低下が運動耐容能や予後の重要な規定因子であることが知られているが，我々は，陳旧性心筋梗塞患者（n=71）における右室機能を健常者（n=45）と比較検討し，更に右室機能が予後の及ぼす影響を検討したので，考察を交えて解説したい．
最後に，左心系疾患症例の中には，左室駆出率の保たれた心不全の中には，後毛細血管性肺高血圧を合併する症例も存在するが，肺動脈性肺高血圧症に代表されるような前毛細血管性肺高血圧症との鑑別が，画像診断からは困難な症例も見られ，重症な臨床的問題点として認識されている．これら2つの病態における超音波検査診断のポイントについて自験例を基に考察したい．