Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 基礎
パネルディスカッション 基礎2 超音波による治療技術

(S232)

キャビテーション非熱的効果による抗腫瘍効果の超音波診断技術を用いるモニタリング

Ultrasonic monitoring of non-thermal cavitational tumor treatment

川畑 健一1, 丸岡 貴司1, 浅見 玲衣1, 吉川 秀樹1, 蘆田 玲子2

Ken-ichi KAWABATA1, Takashi MARUOKA1, Rei ASAMI1, Hideki YOSHIKAWA1, Reiko ASHIDA2

1株式会社日立製作所中央研究所メディカルシステム研究部, 2大阪府立成人病センター消化器検診科

1Medical Systems Research Department, Central Research Laboratory, Hitachi, Ltd., 2Dept. Screening for Cancer of Digestive Organs, Osaka Medical Center for Cancer and Cardiovascular Disease

キーワード :

【緒言】
膵臓がんに代表される乏血性・高内圧のがんに対する薬剤治療の効果は一般に低い.全身投与では患部の薬剤濃度を他の部位よりも高くすることが難しいからであり,局所投与では投与部位の薬剤濃度を高めることは可能であるが,腫瘍部位全体への均一な薬剤分布が難しいからである.我々は,このような問題を解決するため,薬剤の局所投与をベースとし,超音波照射により組織構造を破壊することで薬物分布の制御を行う手法の検討を進めている.本手法においては,増感剤として相変化ナノ液滴(Phase change nano droplet(PCND))を用いる.本手法においては,超音波照射は,薬物分布の制御を行うと同時に,組織構造の破壊に伴う細胞膜の損傷を生じ,がん細胞の薬剤への感受性を向上させる効果を生じることが期待される.今回,この新規治療法において,治療が十分に行われたかどうかを判定するのに重要な治療モニタリング技術に関し,超音波診断技術を用いた手法について検討した結果を報告する.
【実験方法】
PCNDは,以下の手順で調製した.低沸点化合物としてC5F12を,高沸点化合物としてC6F14を用い,それらをリン脂質を用いてエマルションとする.さらに,高圧乳化処理を行い直径約400nm(静的光散乱により測定)の粒径PCNDを得た.このPCNDを麻酔下CDF1マウスの太腿部に移植し約1cmに成長させたColon26腫瘍に局注し,1MHzのパルスHIFU(3.2kW/cm2,300波,PRF: 0.1kHz)の継続的な照射によりキャビテーションを生成し,組織への機械的効果を得た.この治療用超音波パルス照射による腫瘍組織の変化を,超音波診断装置のB像,Real-time Tissue Elastography(RTE)により観察した.
【結果と考察】
パルスHIFUの照射により治療を開始すると,診断画像上,HIFU焦点において高輝度領域が確認された.照射時間が長くなるに従って高輝度領域が焦点よりパルス照射源に拡大する様子が確認できた.さらなる超音波照射により,高輝度であった領域は,周囲組織よりも低輝度に変化することがわかった.照射終了後に組織割面を観察すると,超音波画像上での輝度変化領域と治療による組織変化が確認された領域はほぼ同一であった.さらに,治療後の組織をRTEにて観察した.本治療においては,機械的に組織構造を破壊していることから,周囲組織よりも柔らかく表示されることが想定された.実際に測定した結果も,B像で周囲よりも低輝度に表示された部位がRTEにより柔らかく表示されることがわかった.これらの結果は,組織溶解療法(histotripsy)で得られたものとほぼ同一であった.Histotripsyは,我々が検討している新規超音波治療と同様,キャビテーション非熱的作用により治療効果を得ようとするものであり,モニタリング上同様の現象が見られるものと考えられた.また,超音波診断装置によるモニタリングには,治療により生成する気泡が強く影響を与え,正確なモニタリングの妨げになる場合があることがわかった.今後,この点も考慮した治療用超音波パルスおよびPCNDの開発を行う予定である.
【謝辞】
本発表の一部は,日本超音波医学会の研究開発班活動の一部として行ったものである.