Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 基礎
パネルディスカッション 基礎1 超音波はどこまで安全か

(S228)

超音波計測の新技術

New techniques for ultrasound field measurements

工藤 信樹

Nobuki KUDO

北海道大学大学院情報科学研究科生命人間情報科学専攻

Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University

キーワード :

【はじめに】
診断と治療の両領域において,医用超音波の新しい可能性を拓く技術が開発されている.これに伴い,利用される超音波の照射条件が拡大し,超音波測定技術にも新たな対応が求められている.本稿では,超音波計測技術における新しい技術を紹介し,今後の超音波計測が向かうべき方向を考察する.
【ハイドロホンによる超音波出力評価】
超音波の音圧を測定する水中マイクロホンをハイドロホンという.超音波診断装置のパルス超音波の測定には,厚さ10ミクロン程度の薄い圧電樹脂フィルムで空間上の一点の圧力を検出するメンブレンハイドロホンが主として用いられる.測定感度,広帯域性に優れ,多点をスキャンすることにより正確な3次元音場を計測できる.反面,高価な素子であるが性能が劣化しやすく,測定には専用の計測システムと熟練した技術が必要となる.また測定精度を維持するには定期的な再校正が必要であり,コストの高い計測と言える.
【新しい超音波計測技術】
より正確な測定や簡便さ実現する音場計測に対するニーズは大きい.特に,超音波の利用範囲が拡大していることから,近年多くの新手法が報告されている.
・カロリメトリ法 超音波の持つエネルギを全て伝搬媒体に吸収させ,伝搬媒体の温度上昇を計測することにより超音波出力を求める手法をカロリメトリ法という.診断用プローブが発生するエネルギの総量を計測するために用いられる.超音波から熱への変換効率が高く,熱の散逸を最小に止めた水槽の開発が進められている1)
・ロバストハイドロホン メンブレンハイドロホンの特性劣化は,超音波により圧電フィルムやその上に形成した電極が損傷を受けることによって起きる.そこで,圧電体の前面にこれを保護する金属板を設けることで損傷を防ぐハイドロホンが開発されており2),高音圧の超音波計測への応用が期待されている.
・温度上昇測定ファントム 超音波の熱的な生体作用の検討には,生体局所での温度上昇の推定が重要となる.これを目的として,生体と同程度の超音波吸収特性と熱拡散係数を有するファントムに超音波を照射し,ファントム内部をサーモカメラで撮影することにより温度上昇の空間分布を可視化する手法が開発されている3).超音波診断装置の国際規格でも,日本発の技術として取り上げられる方向にある.
・光学的手法による音場可視化 水の屈折率は超音波の圧力に依存し,屈折率の勾配場に入射した光の進行方向は曲げられる.このような原理を利用して超音波音場を可視化するシュリーレン法が古くから利用されている.最近では,より簡便なフォーカストシャドウグラフ法の光学系を用いて瞬時音場を可視化する手法が提案されている4).光学系の選択により低音圧から高音圧まで広い範囲の音場計測が可能な簡便な技術として期待されている.
【まとめ】
超音波計測技術は,医用超音波の進展を支える重要な基盤技術である.熟練を要せずに低コストで再現性の良い測定結果が得られる新しい測定技術の提供は,特に技術開発のインキュベータとして機能する大学や新規参入企業にとって重要である.
【参考文献】
1)Uchida T, et al. Proc. Symp. Ultrason. Electro. 2012; 33: 55-56.
2)椎葉倫久他.第86回日超医抄録集2013; 40(suppl):S433.
3)新川竜大他.信学技報2011,US2011-90: 37-40.
4)工藤信樹他.超音波医学2011,38(1):25-26.