Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 基礎
シンポジウム 基礎1 超音波による定量診断はどこまで可能か?

(S221)

超音波による定量診断:血管壁の弾性特性計測

Ultrasonic Quantitative Diagnosis: Measurement of Elasticity of Arterial Wall

長谷川 英之1, 2, 金井 浩1, 2

Hideyuki HASEGAWA1, 2, Hiroshi KANAI1, 2

1東北大学大学院医工学研究科, 2東北大学大学院工学研究科

1Graduate School of Biomedical Engineering, Tohoku University, 2Graduate School of Engineering, Tohoku University

キーワード :

超音波による定量計測の1例として,生体組織の弾性特性計測が挙げられる.超音波顕微鏡などで計測される体積弾性率に比べ,ずり弾性率は様々な病態による組織構造の変化をより大きく反映するため[1],生体計測においてはずり弾性率を計測しようとする研究が盛んである.血管壁についても,動脈硬化の進展によりその弾性特性が変化することは広く知られている.
ずり弾性に関する情報を得るための手法は,2つに大別されると考えられる.1つは,エラストグラフィ[2]に代表される,外力による組織の変形量(ひずみ)を計測する方法である.我々は,受信超音波信号の位相を用いて,心拍に伴う血圧上昇による血管壁の微小な厚みの変化(ひずみ)を計測する手法を開発した[3-5].血管壁の場合,均一な円筒管とみなせるような場合でも壁内の応力は壁の血管中心軸からの距離に反比例する.つまり,内腔側ほど応力が大きいため壁の弾性特性が均一であってもひずみ量は一定とならない.厳密に弾性特性を評価するためには,応力に関する情報も必要となる.動脈硬化性病変など,形状,弾性特性とも不均一な場合は応力分布を推定することは困難である.我々は,脈圧と血管壁の寸法から壁の平均応力を推定し,平均応力でひずみ量を正規化して弾性パラメータを算出する手法を開発した[5].本弾性パラメータは,血管壁が円筒管とみなせる場合には弾性率に対応する.そうでない場合は,厳密な弾性率に対応するものではないが,血管壁局所領域に単位脈圧当たりにどれだけのひずみ量が発生しているか,可動性を評価することができ,動脈硬化性病変の易破裂性診断等に有用であると考えられる.平均応力で正規化することで,測定時の脈圧の大小が測定結果に与える影響を低減することができる.
もう1つの方法として,生体組織中を伝搬するずり波(横波)の伝搬速度を計測する手法が挙げられる[6].血管においては,脈波伝搬速度を計測することにより弾性特性を評価できることが広く知られており,古くから用いられている.従来の脈波速度法は,大腿動脈と頸動脈の間など,数十cm間の伝搬速度を計測し,全身的な血管弾性をスクリーニングするために有用である.それに対し我々は,動脈硬化病変など局所における脈波伝搬を計測するために,数千Hzの高フレームレート計測を用いている[7].脈波の場合は血管の寸法に関する情報も必要であるが,基本的に組織の密度を仮定することによりずり波伝搬速度から弾性特性の推定が可能である.応力の推定を必要としない点が大きな利点であるが,空間分解能はずり波の波長(脈波の場合は数十cm)に依存すると考えられる.
以上をまとめると,ひずみ計測は,超音波診断装置の空間分解能程度の局所ごとに計測を行うことができ,高空間分解能であるが,応力分布が不明な場合は厳密に弾性特性を推定することは難しい.一方,ずり波伝搬計測は,応力の推定を要さず弾性特性を推定可能であるが,空間分解能がずり波の波長によって制限されると思われる.それぞれの特徴を理解し,適した領域で使用することで,医療診断に有益な手段となることが期待される.
【参考文献】
[1]Sarvazyan他,UMB, 1998.
[2]Ophir他,Ultrason Imaging, 1981.
[3]Kanai他,IEEE TUFFC, 1996.
[4]Hasegawa他,Electron Lett, 1997.
[5]Hasegawa他,IEEE TUFFC, 2008.
[6]Yamakoshi他,IEEE TUFFC, 1990.
[7]Hasegawa他,J Med Ultrason, 2013.