Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 基礎
シンポジウム 基礎1 超音波による定量診断はどこまで可能か?

(S220)

超音波による骨の定量診断技術の現状と課題

Quantitative ultrasonic evaluation of bone

松川 真美1, 眞野 功2

Mami MATSUKAWA1, Isao MANO2

1同志社大学理工学部, 2同志社大学高等研究教育機構

1Faculty of Science and Engineering, Doshisha University, 2Organization for Advanced Research and Education, Doshisha University

キーワード :

【超音波による骨評価】
超音波による骨診断技術は総称して「定量的超音波測定法:Quantitative Ultrasound(QUS)」と呼ばれている.超音波には骨量や骨密度だけでなく骨の「構造特性」(マクロ的な骨の形状や構造,ミクロな多孔性構造など)や「材料特性」(ミネラル化度や微結晶のサイズ,コラーゲン,異方性,マイクロダメージなど)が反映される.また骨は不均一性をもつ強い異方性材料でもある.超音波測定の定量性の議論では,これらを踏まえたうえで,どのような特性が強く反映されているのか,微視から巨視的レベルにわたる検討が必要になる[1].
現在の日本で主流の臨床用超音波骨密度計測装置は,踵骨中を伝搬する数100kHzから数MHz帯域のパルス超音波法である.ただし,これらの装置は測定部位の皮膚軟組織,骨組織や骨髄も含めた平均的な音響特性で評価しているため,骨のみの定量性の評価が難しい.そこで,新しい超音波による計測装置として,次のような研究が報告されている.
1)踵骨の海綿骨部からの後方散乱波を測定し,骨梁構造を推定する評価法(フランス,中国など)[2].
2)橈骨海綿骨中の縦波2波伝搬現象や皮質骨内の音波反射による評価法(LD-100,応用電機)[3].
3)長骨の皮質骨中を荷重方向に伝搬する縦波音速による評価法(Axial Transmission法)[4].
海綿骨は骨粗鬆症の進展による構造変化が著しいため,評価対象として有力な部位である.ただし,実際に骨粗鬆症などで問題となるのは体荷重を支える皮質骨の骨折である.超音波法による皮質骨の弾性評価も骨折防止に直結する重要な課題である.
【新しい超音波骨計測装置の現状と課題】
海綿骨のように固体と液体が共存した複雑な材料中では,各方向に音波の散乱が生じる.このうち後方散乱は装置も簡便で測定が容易である.今後は得られたデータと骨構造の相関や定量性の議論が期待される.また海綿骨ではMHz域の縦波が2波に分離伝搬する現象が生じる.LD100はすでに認可をうけて臨床に用いられており,この現象を利用して,橈骨海綿骨中の低速波の音響特性から海綿骨部の骨密度を推定している.LD100で得られた骨密度は同一部位のX線CTによる結果と高い相関を示しており,X線CTと同程度の定量性を確保している.また,周囲の皮質骨内の反射波を計測することにより,皮質骨厚さの計測も可能である.
Axial Transmission法では,脛骨や橈骨の長管骨を対象に,荷重方向の音波伝搬速度を計測する.この手法はフランスやフィンランドを中心に行われているが,近年日本でも装置開発の動きが見いだされる.この装置では数100kHzから数MHzの周波数領域で管骨皮質骨を伝搬する超音波を計測し,皮質骨中の音波伝搬速度から皮質骨の弾性的性質を推定している.すでに健常者と骨粗鬆症患者の音速比較など,臨床研究も進められているが,この手法では用いる周波数や皮質骨厚さにより音波の伝搬モードを検討する必要がある.また,測定される音速の定量性を確保するには,皮質骨中の音速の不均一性や異方性の把握も不可欠である.現在はまだ骨中の音速は等方,均一と仮定して臨床計測が進められているが,音速分布を考慮した骨モデルの計測や音波伝搬シミュレーションも行われつつあり,今後より定量評価を目指した研究が期待される.
【参考文献】
[1]P.Laugier and G.Haïat ed., Bone Quantitative Ultrasound, Springer, 2011.
[2]Y.-Q.Jiang et.al, Ultrasound Med. Biol., 40,1307-1317(2014).
[3]T.Otani, et.al, J. Appl. Phys., 48,07GK05(2009)
[4]D.Mitton, et. al, J.Biomech., 47,1548-1553(2014).