Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 領域横断
シンポジウム 領域横断4 一度見たらわすれない超音波画像,知っておきたい手技

(S198)

膵・後腹膜の超音波診断

Ultrasonographic examination of panncreas and retroperitoneum

辻本 文雄

Fumio TSUJIMOTO

聖マリアンナ医科大学臨床検査医学講座

Laboratory Med., St. Marianna University School of Med.

キーワード :

膵の形状,大きさ,実質のエコーレベルは年齢による変化を含めて個人差が大きい.高齢者は,CTでは霜降り状で,分葉状構造が目立つが,超音波像では,膵実質の詳細な構造が不明で全体的に高エコーに見えるだけである.病理組織学的には,小葉内に数個の脂肪細胞が散在する程度のものから,小葉全体がほぼ脂肪組織に置き換わり,内部にわずかな小実質塊あるいはランゲルハンス島が残存しているような高度なものもある.膵の脂肪沈着は,加齢あるいは肥満とともに高頻度に出現する.また,糖尿病,慢性膵炎,肝疾患,栄養障害,ウイルス感染,ステロイド,膵管閉塞などに合併することが多い.通常,びまん性に脂肪沈着が見られるが,背側膵と腹側膵の一方だけ脂肪沈着が見られることがある.膵に限らず,腹部の超音波検査では,まず心窩部より走査する.この部位での情報量が最も多いためである.従って,心窩部横走査→左肋骨弓下走査→右肋骨弓下走査と順次移動し,肝を隈無く走査して異常がなければ肝静脈断面,門脈断面を撮像しておく.次に,心窩部横走査で,膵体部→尾部→頭部の順に振り子走査と扇状走査を組み合わせて膵を走査する.さらに,膵頭部に対して心窩部縦走査かつ扇状走査を行う.プローブで腹壁より比較的強く押し,胃・横行結腸などを圧排偏位させて走査する.はじめに,SMV/SVよりなる無エコー域の腹側には必ず膵頸部から膵体部が存在するので,まずこの無エコー域を描出することに努める.体格のよい被験者では,膵は非常に深部に位置することがあるので,超音波の減衰を防ぐためプローブを強く圧迫し,プローブと膵との距離を縮める必要がある.被験者には力を抜いてもらい,呼吸を停止した状態で走査するとうまくいくことが多い.痩せた被験者では,深吸気とし腹部を膨満させた方が膵の観察に適している.圧迫が不足すると膵体尾部の描出は不十分となる可能性がある.次に,心窩部縦走査に移り,膵体部を通して膵尾部を観察する.同時に,腹部大動脈も観察し,撮像する.さらに,プローブを右側に平行移動して,SMVから右側の膵頭部を描出する.IVCの腹側には腹側膵が接しているので,IVCの無エコー域が参考になる.IVCが不明瞭であるときは,深吸気とし,IVCを拡張させる.膵尾部はさらに左肋間走査で,脾を音響窓にして描出を試みる.膵腫瘍,急性・慢性膵炎,自己免疫性膵炎について走査上の注意点について述べたい.例えば,膵管癌を検出するには,その腫瘤像を描出ことに努めるのも重要であるが,主膵管拡張像が鍵となる.後腹膜腔は,副腎,腎,尿管,膀胱,血管,リンパ管,神経など多くの器官を含み,この領域の腫瘍は発生母体同様に多彩な組織型を示すが,上皮性腫瘍はほとんど認めない.悪性腫瘍が全体の80%を占める.ただし,腎を除く後腹膜悪性腫瘍は,癌全体の0.2%未満の稀な疾患である.頻度の高い悪性腫瘍は脂肪肉腫で,ついで平滑筋肉腫,悪性線維性組織球腫,悪性リンパ腫,線維肉腫がある.良性腫瘍は,脂肪腫,奇形腫,神経線維腫,神経鞘腫,血管腫,混合腫瘍,リンパ管腫がある.副腎外の傍神経節腫は後腹膜傍脊柱部,特にZuckerkandle体から発生し,半数が悪性である.症状は特有なものはなく,発現も遅く,近隣臓器への圧迫症状が現れて初めて気つくことが多い.画像診断,特にCT,MRIにより後腹膜腫瘍の診断は比較的容易になった.スクリーニングの超音波検査で,後腹膜腫瘍を検出することも多い.腫瘍以外では,後腹膜線維症のみを呈するIgG4関連後腹膜線維症と呼ばれる病態もある.膵走査に並行して腹部大動脈走査も行うことにより,後腹膜腔腫瘤性病変の検出率が高くなる.