Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別プログラム 領域横断
シンポジウム 領域横断2 これって超音波でしょう.超音波検査の正しい使い方とそれに応えるための検査のポイント

(S191)

これって超音波でしょう−腹部悪性腫瘍スクリーニング

Ultrasonography is the best modality for the screening examination of abdominal malignant tumor

金田 智

Satoshi KANEDA

東京都済生会中央病院放射線科

Departmet of Radiology, Saiseikai Central Hospital

キーワード :

【はじめに】
腹部悪性腫瘍のスクリーニング検査として超音波検査は広く用いられている.腎癌や隆起型胆嚢癌などは,超音波検査でもしばしば発見され,臨床側にも超音波検査の有効性がよく認識されている.しかし肝や膵については超音波検査はしばしば見落しが指摘され,CTやMRI検査の方がスクリーニングに有用であると思われていることが多い.しかし実際にはCTやMRIをスクリーニングに用いることには困難がある.
【スクリーニング検査の要件】
スクリーニングにおける検査法の選択の原則は,「検査の対象となる疾患である確率が低ければ低侵襲な検査を,疾患がある可能性が高ければ侵襲性が比較的高くても,あるいはコストが多少高くても正診率の高い検査法を採用してもよい.」ということである.たとえばC型慢性肝炎の症例であれば,肝細胞が癌のスクリーニング検査として超音波検査だけでなく,放射線被曝や造影剤の副作用のリスクがあり,しかも高コストであってもダイナミックCTやEOBプリモビストMRIも使われる.ところが健診のような悪性腫瘍の存在する確率がきわめて低い対象であれば,やはり超音波検査のような無侵襲な検査でなければならない.
【肝細胞癌のスクリーニング】
肝細胞癌をCTやMRIで検索する場合は,造影剤の使用が必須である.単純CTでは比較的小さい肝細胞癌の発見は困難なことが多く,また単純MRIでは他の腫瘍との鑑別が困難なことが多いためである.最近慢性肝炎の治療に抗ウイルス療法が行われるようになって,B型肝炎やC型肝炎に発症する肝細胞癌の数は減りつつある.一方糖尿病など非B非C症例の肝細胞癌の割合が増えているが,これらの症例ではリスクの高さを考えるとダイナミックCTを加えたスクリーニング検査は採用しにくい.したがって超音波検査によるスクリーニングが重要となる.検査のポイントは肝全体を観察することに尽きるが,とくに端を意識して検査することが重要である.
【膵癌のスクリーニング】
膵癌の精査には,ダイナミックCTやMRI,MRCPなどが使用される.膵癌はある程度の大きさがあっても,単純CTやMRCPでは診断できないことが多い.ましてや小さい膵癌は,ダイナミックCTやダイナミックMRIをやっても診断できないこともある.実際体重減少や上腹部痛といった膵癌を否定できない軽度の症状では,どこまでしっかりとしたスクリーニングを行うか迷うことが多い.膵癌検索のための超音波検査のポイントは,腫瘤像と膵管拡張の検出である.まずは膵全体を観察できるように,体位変換を利用して,膵頭部,体部,尾部に分けて描出することが重要である,拡張した膵管が途絶している場合は,まず途絶部の癌をうたがう.また膵管拡張のないばあいは腫瘤そのものをさがさなくてはならない.見落しの多い膵頭下部は,十二指腸を目安にして膵頭部全体を観察することが重要である.また尾部は右下側臥位左肋骨弓下横断走査や左肋間からの経脾的走査が重要である.
【まとめ】
ある程度大きい腹部悪性腫瘍は単純CTや単純MRIでスクリーニングすることができるが,腫瘍が小さいと造影剤なしにCTやMRI検査でスクリーニングすることはできない.健診のような有病率の低い対象では無侵襲性が重要であり,超音波検査の方がしばしば優位である.見落しを防ぐためには体位変換をうまく利用して腹部臓器全体をしっかり描出することが重要である.