Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2015 - Vol.42

Vol.42 No.Supplement

特別講演 エキスパートに聞く,今の旬
胎児循環 

(S165)

エキスパートに聞く,今の旬 胎児心拍数モニターで判断に苦慮する胎児不整脈

Fetal arrhythmias with deficult assesment by fetal heart rate monitaring

与田 仁志

Hitoshi YODA

東邦大学医療センター大森病院新生児科

Neonatology, Toho University Medical Center

キーワード :

東邦大学では胎児超音波外来を設立し,当院産婦人科医と共同して院内外の産婦人科医からの胎児精査を実施している.紹介される胎児異常の中でも心疾患は最も多く,産婦人科医や超音波検査技師によるスクリーニングで心疾患の診断は最も難しいジャンルに入ると推察する.今回は,その中でも胎児不整脈に焦点を絞って解説したい.胎児持続性頻脈・徐脈不整脈においては胎児心拍陣痛図(CTG)から得られる胎児心拍数モニターの所見も胎児心拍数波形レベル4〜5の診断となってしまう恐れがあり,NRFSの一般的解釈ができない.
現在,胎児不整脈の診断には胎児心エコー検査のうち,心室心房をスキャンするMモード法,静脈動脈(SVC-AAo)を同時にサンプルするドプラ法が主たる診断法である.さらに超音波検査ではデュアルドプラ法,組織ドプラ法の応用があるが,いずれも機種が限定される.モダリティは異なるが,母体腹壁から得る胎児心磁図,胎児心電図などがあり,不整脈診断に極めて有用性が高いが,いずれも使用できる施設制限がある.今回は日常使用するMモード法,ドプラ法にて診断した代表的頻脈性不整脈,徐脈性不整脈での超音波所見と胎児心拍数モニターとの関連について解説を試みる.
経験例は頻脈性不整脈14例(上室性頻拍PSVT 6例,心房粗動AF 7例,異所性心房頻拍EAT 2例,心房細動Af 1例),徐脈性不整脈9例(基礎疾患のない完全房室ブロックCAVB 5例,心疾患に伴うCAVB 3例,高度房室ブロック1例)である.当日はCTG所見の詳細が判明している最近の症例を供覧する.
胎児頻脈性不整脈ではPSVTやAF 2:1伝導にしろ,EATにしろ,概ね胎児心拍数は210以上となり記録誌ではハーフカウントし,FHR 105以上で表示されることが多い.しかも基線細変動がないのでNRFSの判定となるため,BPSを含めた胎児機能を総合的に見て,不整脈の判定を行わなければならない.特に,PSVTでは全く細変動がなく,一定であることが多いのに対し,EATではwarm-up & cool-downを反映するかのような変動がみられることも特徴である.また,頻脈性不整脈とNSRの変換期や持続時間を捉えられるのもCTGの利点であろう.胎児超音波診断ではMモードでもドプラ法でも診断可能であり,特にAFでは450前後の早い心房粗動もMモードで明確に捉えられる.ドプラ法はSCVと上行Aoとのサンプルでshort VA(PSVTなど)かlong VA(EATなど)かの診断が可能であるが,熟練した手技が求められる.この判断は初期治療の選択に影響するため正確でなければならない.この点はデュアルドプラ法,組織ドプラ法,胎児心磁図,胎児心電図など他のモダリティの応用が期待される.多くの場合,胎児水腫への進展は心拍数よりも発症時期や持続期間が影響する.
徐脈性不整脈では最も多いCAVBでは頻脈性と同じく基線細変動がなく直線的である.FHRが55以上であればCTG記録誌に描出可能であるが,それ以下では困難で,場合によっては心房心拍数を拾う場合もある.CAVB以外ではAV伝導が途切れる頻度によって心拍数が異なるため変換期が慌ただしく変化し,記録誌上も連続的なFHRがとれない.また,良性で治療不要とされるPAC with blockの二段脈では,高度AVB(2:1伝導)との鑑別が困難で,心房収縮の正確な判定が求められる.徐脈性不整脈では先天性心疾患も合併も知られており,多脾症,修正大血管転位症,房室中隔欠損などが有名である.自験例ではその他に,無脾症,両大血管右室起始(trisomy18)などを経験した.
現在,頻脈性不整脈については前方視的臨床研究が進行中であり,保険収載を目指して症例登録を多施設で実施しており全国的な施設の協力が求められている.